第1話 ファーストキス
第2話 プライド
第3話 薄れる違和感
第4話 ユウの変心
第5話 二つの人生
第6話 再会
第7話 小さな疑問
最終話 誓い

掲示板

第6話 再会

時は流れた。

私が今の美保の身体になってから4年が過ぎようとしていた。
私は、地元の大学の工学部の3年になっていた。
裕也だった頃の記憶はすっかり薄れ、香川美保という女子大生として普通の生活を過ごしていた。
いや、私はまだ、詩織との特別な関係を続けていたので、その点においては普通とはいえないかもしれない。

夏休みまであと一週間となった土曜日、私は詩織と二人でドライブをしていた。
私は、詩織を助手席に乗せ、ドライブすることがとても好きだった。
詩織を彼女にしたい、という欲望は無意識となって私の心に存在していた。

詩織も大学の3年になっていた。
私とは別の大学だ。

私は裕也の頃から、理系志望だった。
男のご多分に漏れず、もともと機械いじりが好きだったし、物の仕組みや原理を知ることに興味があった。
高校2年の夏に突然美保になってしまってからも、この性質は変わりなく、私は自然と理科系の大学を目指した。
美保の両親の希望もあって、自宅から通える地元の大学に進学した。
私の偏差値ともちょうど釣り合った。

今の私は、自分の立場に大いに甘え、何の苦労もなく大学生活を送っている。

私は大学に入学してすぐに運転免許を取得した。
車は両親に買ってもらった。
といっても、私の名義ではなく父の会社の名義になっている。
車選びにあたっては、父は自分がずっと乗り継いできているドイツメーカーの小型車を勧めたが、私は裕也の頃から車には興味があったので、同じ予算で買える国産スポーツのマニュアルミッションを望んだ。
父は驚いた。
美保がこんなこだわった車選びをするとは思っていなかったようだ。
だが、元来父も車好きだったので、強く反対はしなかった。
むしろ、娘の意外な車へのこだわりを好意的に受け止めてくれた。
ただ、マニュアルだけは止めといたほうがいいと最後まで言っていたが、そこは私が一番こだわったところだった。
結局私はわがままを通し、自分でお金を一銭も払うことなく、マニュアルミッションの白いスポーツクーペを手に入れた。

車を手に入れてからは、大学へも車で通い、時間があるときは一人で山道を運転したりもした。
ガソリンは地元のスタンドなら会社のカードが使えたので、私が支払う必要はなかった。
もっとも、小遣いも十分にもらっていたので、遠出したときは自分でガソリンを入れてもそれほど負担にはならなかった。

私は、安易なほうに流される情けない性格は裕也のときのままだ。
美保の、いわゆる「お嬢様」の立場に甘えきってていた。
美保が美保のままならきっと今の私よりもずっと自立していただろう。

とはいいながら、私は車を運転することがとても楽しかった。
自分の思うように車を操れた時は、自分が女とか男とかを忘れることができた。
私は、この甘えた立場に満足していた。

詩織は東京の大学に進学した。
詩織は地元を出て、東京で一人暮らしをしている。
私の地元から東京の詩織の所までは高速道路を使っても3時間はかかるが、私は、週末や休日を利用して、こうしてしばしば詩織と会っていた。

詩織が一人暮らしをはじめたばかりの頃は、詩織と会うたびに詩織の部屋で愛し合った。
高校のときは、思う存分愛し合うことはできなかったが、だれも邪魔者がいない詩織の部屋では、お互いに生まれたままの姿で、周りを気にすることなく安心して愛し合うことに没頭できた。
それが、また、私たちに新たな快楽をもたらした。

だが、私には相変わらず、男として詩織を愛したい、という欲望が根強く残っていた。

私は一度詩織に尋ねたことがある。
「ねえ、詩織はあたしと付き合ってて本当にいいの?」
私は、詩織の本当の気持ちが分からなかった。
詩織が私のことを「男」として愛しているのか、そうではないのか。
「え?、いやだ、何でそんなこと聞くのよ。」
「だって、やっぱり普通じゃないでしょ、あたしたち。」
「美保は、そんなこと気にしてるの?あたしは美保が好き。それだけ。それとも、美保はあたしのこといやになっちゃったの?」
「そんなことないよ。あたしは詩織のことずっと好きだよ。もちろん今も。だけど、いつもベッドの上ではあたしがやりたいようにやってるから・・・。」
「じゃあ、今度はあたしがやりたいようにやろうか?」
詩織が時々見せるいたずらっこの表情をした。
「えっ!?」
「冗談よ。あたしは美保に身を任せているのがとても気持ちいいの・・・。って何でこんな恥ずかしいこと言わせんのよ!」
詩織は顔を赤くして怒った。

私は詩織のその正直な反応がとてもうれしかったが、一方で、女の私との関係では詩織は本当には満足していないのではないか、という思いを払いきれないでいた。
と同時に私自身も、詩織と愛し合うときには、射精したい、という気持ちを消せないでいた。
女の快感のピークは得られるが、どんなに気持ちを高ぶらせてオーガズムに達したところで、射精しないことには本当の快感ではないような気がしていた。
今の私にとっての究極の快感は射精だった。
裕也の頃の記憶や感覚はどんどん薄れていったが、射精の快感だけが記憶の中でどんどん大きくなっていった。
それは私には永遠に得ることのできないものであるにも関わらず、詩織と愛し合うときやオナニーのときには、それを求めてしまう自分がいた。

実は、1年ほど前の大学2年の時、詩織は男と付き合ってた時期があった。
その時期も、私との関係は続いていたが、必然的に私たちが会う頻度は少なくなっていた。
詩織は、その男とは身体の関係にまで発展した。

私は、その頃、一時的に精神的に不安定になった。
(やはり、女の私より、男との関係のほうが詩織にはいいに決まっている・・・。)
そう、考えると、平常心を保てなかった。

だが、詩織は、その男とは半年ほどで別れ、私たちはまた、以前と同じ関係になった。
詩織が別れた原因は、その男が詩織が思っていたような男ではなかったからだと言っていたが、この一件で、いつか詩織にも理想の男が現れ、私の元を離れていくだろうことを、私は改めて思い知らされた。
分かりきっていたことではあったが、私は、私が詩織の生涯のパートナーとなれないことが切なかった。

一方で、私は、未だに男を受け入れられないでいた

工学部はほとんどが男子学生だ。
女子は1割もいない。
必然的に男子と行動することが多くなる。
私は男子と行動することは、苦にならなかったし、私にとっては気楽だった。
むしろ、女子と行動することは苦手だった。
私は、女子特有のグループへの帰属意識や、独特の気遣いができずに、どうしても浮いてしまうように感じた。
もし自分が裕也のままだったら、きっといい友達になれただろうと思える男子学生もいた。
だが、男子との行動は、私が意識をしなくても、相手が意識をしてしまい、どうしても男女の関係になりそうになる。
私は、男を恋愛の対象とすることが、どうしてもできなかった。
そうなると、気楽な付き合いができなくなり、結果として少し距離を置いた付き合いとならざるを得なかった。

結局私は、男女とも特定のグループには属さず、ひとりで行動することが多くなっていた。
結果、私は週末の詩織とのデートが大きな楽しみとなっていた。

今日もいつものように、私の車で詩織とドライブしている。
今日は詩織の所に泊まり、明日の日曜日に帰るつもりだ。

私は、詩織と会うときは、決まってスカートをはいていた。
いや、それ以外の時も、私はスカートを好んで着ていた。

美保になって初めて制服のスカートをはいたときは、とても頼りなく思えたのだが、2〜3回部活に着ていくうちにすぐに慣れ、2学期が始まる頃には違和感はすっかりなくなっていた。
これは私自身も不思議なことではあったが、自分を女の子として着飾ることについては初めから抵抗がなかったし、そのことに関しては男のプライドが邪魔をすることはまったくなかった。
むしろ、女子の制服を着ることをうれしく感じるようになっていた。
美保の身体にはスカートが良く似合ったからかもしれない。

私が詩織と会うときにスカートをはくようになったのは、あの夏休みの終わりに初めて詩織と愛し合ったときがきっかけだった。
あの後、しばらくは会うたびに私は詩織の身体を求めたくなり、お互いの部屋だけでなく、デパートや公園の狭いトイレでも愛撫しあったことがあった。
いうまでもなく、そんな時スカートは便利だった。
学校でも、詩織のことを想い、我慢できずにトイレで詩織と愛し合ったこともあった。
まさに盛りのついた猫のようだった。

さすがに今は、だいぶ落ち着いてきたものの、誰かに見られるかもしれない、というスリルを求める気持ちはむしろエスカレートしていた。

車を運転するようになり、二人の個室がひとつ増えたようなものだった。
車の中でキスをすることは日常茶飯事だったし、運転しながらお互いのスカートの中をまさぐりあうこともしばしばだった。
ドライブ中はもっぱら私が運転していたので、運転中は詩織にやられっぱなしだった。
その分、車を止めてからは、たっぷり詩織に仕返しをした。

今日も夜が更け、私たちは夜景のスポットとなっている駐車場に車を止めて、私が詩織に仕返しをしていた。
周りにも車が何台か止まっているが、お互いに干渉しない絶妙な間隔を保っている。
どの車も考えることは一緒なのだろう。
私たちが女同士であることを除いては。

「ねえ美保、あれからもう4年たつんだね。」
助手席の詩織が私に話しかけた。
「え?あれって?」
詩織が何を聞いているのか想像はついたが、あいまいな問いかけをしたので、私はとぼけた。
「夏祭りよ。ユウくんが美保になった日。」
「あ、うん。そうだね。」
私は、瞬間的にあの日のことを思い出し、甘酸っぱい気持ちになった。
「ユウくん、どうしてるのかな。美保は連絡取ってる?」
「ううん。取ってない。でも、お母さん情報によると、相変わらずがんばってるみたい。」
「そっか。さすがだね。」

ユウは東大でがんばっているはずだ。
ユウのことだから東大でもいろいろなことに積極的に取り組んでいるに違いない。
ユウも東京で一人暮らしをしていたが、高校卒業以来、私はユウとは一度も会っていない。
ユウは私のことをいつまでも待っている、と言っていたが、今でもそう思っているのだろうか。
私は心のどこかでそれを期待していたが、時の流れの中でユウの気持ちが変わっていたとしても、むしろ、そのほうが自然だろうと思った。

と、その時、私のケータイが着信を知らせた。
なんと、ユウからだった。
ユウからの電話は高校3年の時以来、2年ぶり以上だ。
私の心臓は高鳴ったが、電話に出ようかどうか迷った。

「だれから?」
私が躊躇していると、詩織が尋ねた。
「うん、ユウから・・みたい・・」
「えええ〜っ!?」
「どうしよう・・・詩織・・・」
「どうしようって、早く出なよ。」
「う、うん。」
私は詩織の言葉に背中を押されるように電話に出た。

「もしもし・・・」
『あ、もしもし、香川さんですか?』
「はい・・・」
『あ、美保?俺、裕也だけど。』
「ユウ・・・。」
『美保、ひさしぶり。よかった、電話変わってなかったんだね。今、大丈夫?』
「うん、大丈夫。」
『あのさ、俺、夏休み地元に帰るんだけど、祭りの日にでも会えないかな?』
「えっ?」
ユウの急な誘いに驚いた。
だが、私はこの時ユウに会いたいと思った。
『あ、ごめん。やっぱりダメかな・・・』
「ううん。いいよ。」
私はユウとあの夏祭りの日に会う約束をして、電話を切った。

「ユウくんと会うんだね。」
詩織が私に確認した。
「うん。」
「ユウくん、変わってるかなあ〜。」
「どうかな・・・。」
「あたしもついて行っちゃおうかな?」
「えっ!?」
「冗談よ。でも、後でちゃんと報告してね。」
詩織は少しさびしそうな表情でそう言った。

私は、この時、ユウと会うことに少しときめきを感じていた。
勘のいい詩織は、私の気持ちを敏感に感じ取ったのかもしれない。

「美保、今日はこのまま帰りなよ。」
「えっ?どうして?」
「今日は久しぶりにユウくんのことでも考えてみれば?」
詩織は、私より私の気持ちのことがよく分かっていた。
詩織にそう言われて、なんとなく今日は帰りたい気分になってしまっていることに気がついた。
「うん・・・。そうしようかな。」
「そうしなよ。でも、ちゃんとあたしを送り届けてね。」


私は、言われたとおり詩織を部屋まで送り届け、高速道路で家に向かった。
(ユウは変わったかな?)
(ユウは私をみてどう思うかな?)
(どうして、会おうといってきたのだろう?)
(入れ替わった話をしても平気かな?)
ハンドルを握り、テールランプを見つめながらユウのことばかりを考えていた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。

家についた時、すでに12時を回っていた。
私はそのままベッドに入ったが、ユウのことが頭から離れず、寝付けなかった。

寝付けないときは、決まって手が勝手に自分の身体を慰めた。
今日はユウのことが頭から離れない。
オナニーを始めても、ユウのことを考えていた。

こんなことは初めてだ。
(本当は自分は裕也なんだ。)
(ユウは彼女がいるのだろうか?)
(ユウもオナニー覚えたのかな?)
(ユウは私とセックスしたいのかな?)
私は未だに男を恋愛の対象として見ることはできなかったが、自分が女である以上、自分の身体が男を受け入れるようにできていることは認めざるを得なかった。
(ユウに抱かれたら・・・。)
私は、今まで考えたことのないことを考え始めていた。
男に抱かれることを想像していた。
その男とはもちろんユウだ。
入れ替わったばかりの頃は嫌悪感さえ感じていたユウのことが、今、正反対のベクトルを持ち始めていた。

私は、この時初めて、ユウに抱かれること考えてながらオーガズムを迎えた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

今年もこの町に夏祭りがやってきた。
4年前と同じように、夏の日差しが強く照りつけていた。
街は夏祭り独特の飾り付けがされ、メインストリートには露店が並んでいる。
いつもの夏祭りの光景だ。

私は、フォーマルなシルエットのミディアム丈の白いワンピースを着て、ユウと待ち合わせの約束をしている駅前の喫茶店へ歩いて向かっていた。
私は、久しぶりにユウと会うことに心が弾んだ。
メイクはナチュラルに、しかし念入りに、たっぷり時間をかけた。
少し大人になった自分を見せたかった。

私は喫茶店の扉を開けて、店に入った。
冷房が心地いい。
席を見ると、すでにユウが来ていた。
ユウは私に気がつき、私に向けて手を上げた。
私はユウに自然と笑顔を見せ、ユウのいるテーブルに着いた。

「ひさしぶり。」
ユウが笑顔で私に話しかけた。
2年ぶりに見たユウは少し大人びて見えた。
「ひさしぶりね、ユウ。」
私はユウに男の色気を感じ、少し緊張した。
「美保、そのワンピースかわいいね。よく似合ってる。」
ユウが私の服装をいきなり褒めた。
「え?そ、そう?ありがとう。」
ユウの意外な一言に私は動揺した。
一方で、褒められたことが素直にうれしくて、耳が赤くなっていくことがわかった。
ユウはそんな私の表情をやさしく見つめていた。
「この間は突然電話しちゃってゴメン。」
「ううん、大丈夫。実はあの時ね、詩織とちょうどユウの話してたんだよ。だから、びっくりした。」
「え?俺の話してたの?うれしいな。黒田さんも元気?」
「うん、元気。今も詩織とはよく会ってるんだ。」

私たちは、お互いの近況を報告しあった。

今ユウは東大の法学部で法律や政治のことを学んでいると言う。
ユウは大学で様々なことを学び、自分の進むべき道を見出していた。

「今の日本を動かしているものは何だと思う?」
ユウが私に問いかけた。
「え?そんなこと考えたことないけど・・・。」
私は答えを持っていない。
「官僚だよ。」
「官僚?」
「そう。それも一握りのキャリア官僚さ。日本は官僚制度のおかげでここまで発展してきたんだ。」
「ふ〜ん。」
「官僚制度ってさ、明治時代に大久保利通が中心になって作り出して以来、ず〜っと日本に根付いている社会システムなんだ。あのマッカーサーですら官僚制度を変えることはできなかったくらい強固な日本の制度なんだよ。」
ユウが何を伝えたいのかその真意は分からなかったが、ユウは日本のことを語りだした。
「明治の頃や戦後の高度経済成長の時のように、効率的な経済発展には、特に大きな成果を挙げてきたんだ。日本人は昔からお上の言うことは良く聞くしね。でも、今この官僚制度が崩れかけているんだ。」
ユウは話に熱が入りだした。
「バカな政治家や評論家が本質も分からずに余計な口出しして、日本の優秀な官僚制度を壊しているんだよ。このままいったら、日本は立ち行かなくなる。」
ユウはさらに続けた。
「うちの大学のOBには、日本のいろいろな分野の第一線で活躍している人がたくさんいる。俺は、大学に入ってから、できるだけいろいろな先輩達に会って話を聞いてきたんだ。官僚や政治家、一流企業の社長の話も聞けた。」
ユウの話は止まらない。
「やっぱりなんだかんだいっても官僚は人材の宝庫だよ。みんな日本のことを考えて誇りを持って仕事をしている。だけど、せっかくの有能な人たちがその力を発揮しにくくなってるんだ。」
「・・・・。」
私には、ぴんとこない話だったが、ユウが何かをやろうとする熱意はひしひしと伝わってきた。。
「だから、俺も官僚になる。」
「え?でも、今の話じゃ力を出せないんじゃないの?」
「そう、だから、官僚制度を立て直すんだ。立て直すっていっても、元通りにするんじゃなくて、現代社会に合うように、ちゃんと機能するようしたいんだ。それには、自分が官僚になってそれをよく理解する必要があるだろ?俺は中から組織を変えていこうと思うんだ。東大ってもともと官僚を育成するためにできた大学だしね。」

私はユウの壮大な夢に驚いた。
そして、ユウの実力なら十分叶えられそうに感じ、感動した。
私は言葉が出なかった。

「あ、ゴメン。俺、一方的にしゃべっちゃって。つまんなかったかな?」
「ううん、そんなことないよ。」
「俺さ、このこと誰かに話すの初めてなんだ。ぜひ美保に聞いてもらいたかった。」
「え?どうして?」
「美保、覚えてるかな。俺が美保のことをずっと待ってる、って言ったこと。」
「うん。」
もちろん、私は覚えていた。
「俺、美保に自分の目標を伝えることで、その目標に向かう決心が揺るがないようにしたかったんだ。もう、俺はこれで決めた。美保のためにも絶対に目標に向かってがんばる。いや、美保がいるからきっとがんばれる。」
「でも・・、あたしは、ユウが思うような人間じゃないよ。」
私はユウの壮大な決心を聞いた後では、自分のダメ人間ぶりが恥ずかしくなった。
ユウはこの2年間で、さらに内面を磨き、人間として大きく成長していた。
一方の私は、美保になってからも、苦労を避けてきた。
安易な方、楽な方へと流されていた。
今日もユウに会うために、表面的に飾ることしか考えていなかった。
そんな自分が恥ずかしかった。

「そんなことないさ。美保は両親のそばにいて、親を安心させていればいいんだよ。だから、美保には俺の心の支えになって欲しいんだ。」
「ユウ・・・。」
こんな私のことを好いてくれているユウの気持ちがとてもうれしかった。
ユウは今まで出会った男の中で、一番輝いて見えた。

「俺の美保への気持ちは高校のときと変わらない。でも、これは、俺が勝手に思っていることだから、美保は負担に思わないでいいよ。」
ユウの気持ちは変わっていなかった。
そして、そのやさしさも変わっていなかった。
私は素直にうれしかった。

「ねえ、ユウ。よかったらこの後二人でデートしない?」
私は思い切って提案した。
「えっ?いいの?」
「うん。」
「うれしいな!!」
その時ユウは、おもちゃを手に入れた子供のように無邪気な笑顔を見せた。
私もその笑顔がうれしかった。

私たちは、4年前と同じように夏祭りを楽しんだ。
今日もかき氷をお互いに食べあったりして、とても楽しい時間を過ごした。
私はこの時、ユウのことを恋愛の対象とみていた。
女として好きな男とデートをしている気持ちに自然となれた。

楽しい時間はあっという間に過ぎた。
いつの間にか陽は落ち、提灯に灯が入っていた。

「ねえ、中央公園でちょっと休まない?」
私はユウを誘った。
あの日と同じだ。
いや、私の記憶では、私が美保に誘われたので同じではない。

私たちは中央公園に来た。
そして、あの日と同じベンチに座った。

「懐かしいね。このベンチ変わってない。」
「ほんとだ、あの時と同じだね。」

今日もあの日と同じ、辺りはカップルばかりだ。
私は、あの日のキスを思い出していた。
きっとユウも思い出しているはずだ。

「ねえ、ユウ。あたしね、本当はまだ、あの時入れ替わったって思ってるんだ。」
私は、自分の気持ちを正直に口にした。
「うん。」
「だから、いつかユウが入れ替わったことを認めてくれるんじゃないかって、まだ期待してるの。」
「いいよ、自分の気持ちにウソをついても辛いだけだからね。」

私の心に、また、あの時の孤独な気持ちがよみがえってきてた。
「ユウ、あたしたち、本当に入れ替わってないのかな・・・?」
私は、そう言いながら、涙がこみ上げてきた。
「美保・・・。」
ユウは優しい目で私を見つめた。

そして、私をそっと抱きしめた。
「美保、辛い思いをさせてごめん。俺は、きっと目標に向かってがんばる。俺は今日美保に会って、俺が一番守りたいものが美保だということを確信した。」
高校のときよりも一層逞しくなった身体に抱かれて、私はとても安心できた。
私もユウの身体に手を回した。
湧き上がってきた孤独な気持ちが少しずつ薄らいでいった。

「美保、キスしていい?」
ユウは私に求めてきた。
あれほど強く抱いていた男を受け入れるのことへの抵抗は、このとき全く無くなっていた。
逆に、私もユウを求めていた。
「うん。」
私は、うなずいた。

ユウの唇が私に近づいた。
私は、目を閉じ、ユウに身を委ねた。

唇が触れ合った。

4年前にここでキスをして以来、再びユウとキスをした。
4年前は、入れ替わったという動揺で、ユウに言われるまま仕方なくキスをした。
だが、今は違う。
私はユウとキスをしたいと思った。
女として、好きな男性にキスして欲しいと思った。

ユウは、私をやさしく抱きしめキスをしている。
私はとても幸せな気持ちになった。
ずっと、こうしていたいと思った。

そして、ユウに抱かれてもいい、と思っていた。
いままで、一度も思ったことのない感情だった。

ユウは、ゆっくりと唇を離した。

ふと、私は目を開けるのが怖くなった。
(あの時と同じ?)
その瞬間、また入れ替わったかもしれない、という恐怖がわき上がってきた。
私は、もう元に戻りたくない。
いまさら戻ってもユウには到底なれない。

私は、恐る恐るまぶたを開いた。

ユウが優しい顔で私を見つめていた。

入れ替わってなかった。

「よかった・・・。ユウがいる・・・。」
私はホッとして、そう呟いた。
「あたりまえだよ、美保。もう、余計な心配しなくていいよ。」
「ユウ・・・。」
私は、もう一度ユウに抱きついた。
ユウの胸に抱かれて安心したかった。
ユウは、また私をやさしく受け入れてくれた。
「美保、ずっと辛かったんだね。もう、ひとりで抱えるなよ。俺も美保の力になりたい。」
「うん。ありがとう。」
うれしくて、また、涙が出てきた。

「美保、せっかくのメイクが台無しだね。」
ユウが私の泣き顔を見て唐突に言った。
「え?ああ・・、もう、見ないで。」
私は、慌ててバッグからコンパクトを取り出した。
「冗談だよ。なんともなってないさ。」
「ええ〜?」
私は、ユウのために一生懸命メイクしたことを見透かされたような気がして、とても恥ずかしくなった。


「美保、また、会えるかな?」
ユウは私に尋ねた。
「うん。」
私は素直に答えた。
ユウは夏休み中も、いろいろ忙しいようで明後日には東京に戻ると言う。
私たちは、次の土曜日に東京で会うことにした。


ユウは私を家の前まで送ってくれた。
「美保、今日は本当にありがとう。」
「うん、こちらこそ。とても楽しかった。」
「俺、がんばるよ。」
「うん、がんばって。ユウならきっとできるよ。」
「うん、ありがとう。」
そう言って、ユウは私と別れた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

(ユウ、また、大きくなってた。)
私は自分のベッドに入っても、ユウのことを考えていた。

詩織と愛し合っているときは、いつも、裕也に戻りたい気持ちが強く現れていた。
しかし、今日ユウとしばらくぶりに会って、その気持ちが急速にしぼんでいくのを感じた。

ユウは裕也として、壮大な夢に向かって進んでいる。
もう、私がまったく届かないところを走っている。
今更元に戻ったところで、私は裕也になれないし、誰も幸せにはならないことは明白だ。

そもそも、ユウの言うように入れ替わっていないことが事実なのかもしれない。
入れ替わるなんていうことを考えていること自体がナンセンスだ。
入れ替わったことにいつまでもこだわっているより、素直に女として生き、女として幸せになったほうがいいのかもしれない。

私は今日、ユウのことを男としての魅力を感じた。
キスの後、ユウに抱かれたい、とさえ思った。
今まで、男を恋愛対象として考えられなかったのに、今日のユウに対しては素直に「好き」と思った。
これでやっと、本当に女として生きていくことができるかもしれないと思った。

もし、私がユウと結婚すれば、美保の両親も喜ぶに違いない。
ユウが東大に合格して以来、美保の家でのユウの評価は最大限に高くなっていた。
それに、裕也の両親は、私の記憶の中では私の両親であり、私にとってはかけがえのない育ての親だ。
私としても裕也の両親のそばにいて親孝行をしたい。
私がユウとの結婚を決心すれば、すべてうまくいくように思えた。

(また、ユウに会いたい・・・。)
今日もユウのこと想い、自分を慰めた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


夏祭りの次の日、私は詩織とドライブをしていた。
詩織も夏休み入って、実家に帰ってきていた。
今日はドライブといっても、目的はショッピングだ。
私たちは郊外の大型ショッピングモールを目指していた。

「ねえ、それでユウくんどうだったの?」
早速、助手席の詩織が私に質問した。
「うん、がんばってた。」
「まあ、そりゃそうよね。で、どうがんばってたのよ。」
詩織は具体的な答えを求めてきた。
「なんかね、官僚になるって言ってた。」
「カンリョウ?」
「うん、日本を変えたいんだって。」
「はあ?話が大きいね!」
「でしょ?」
「でも、ユウくんが言うとなんかやってくれそうだよね。」
「そうなんだよねえ。あたしさ、正直なところ、感動しちゃったんだ。結果だけ話すと、現実離れして聞こえるかもしれないけど、ユウの話を目の前で聞いていると、納得させられるもの。」
「そうなんだ。」
「ユウは本気で日本の将来のことを考えてるんだよ。あたしなんか、ユウに会うのに何着て行こうかな、ってことしか考えてなかった。恥ずかしくなっちゃった。」

「美保、ユウくんのこと好きになっちゃった?」
突然、詩織が核心をついた。
「えっ!?」
私の心を見透かしているような詩織の問いかけに動揺した。
「自分の気持ちに正直になったほうがいいよ。」
詩織はそう言うが、私は大好きな詩織の前で、詩織以外に好きな人がいるとは言いたくなかった。
「うん・・・。」
私は生返事をした。
「もしかして、あたしのことを気にしてるの?この前、ユウくんから電話がかかってきたときの美保の表情でなんとなく分かってたよ。」
「詩織・・・、ごめん・・。」
「美保はもう立派な女の子だよ。男の子を好きになるのは当然だよ。だから、あたしのこと気にする必要はないよ。あたしたちは、お互いに好きな男の子ができても変わらないでしょ?女同士だから浮気でも何でもないよ。」
詩織は割り切っていた。
いや、私の代わりに言い訳をしてくれたのかもしれない。
「そうだよね、それでいいんだよね。」
「そうだよ。それに、あたしだって好きな男の子いるんだからね。」
「ええっ!?」
「うそよ。ほら、すぐそうやって動揺する。」
「もうっ!」
「でも、美保が男を見つけたから、あたしだってまた男の子探すからね。」
「それはだめっ!!許さん!」
「ええ〜!!美保ずる〜い。」
「ははは・・・。」
私たちはいつものようにじゃれ合っていた。

私は、ユウとキスをしたことや、また会う約束をしたことも正直に話した。

詩織だって、私の気持ちがユウに向いてしまうのはうれしくないに違いない。
だが、自分がここで少しでもその気持ちを表してしまうと、私がいつまでたっても本当の女になれないと思い、ユウとの関係を後押しするような発言をしたのだろう。
私はそんな詩織の気持ちに甘えた。


ショッピングモールでは、いつも以上に恋人同士の姿が目に留まった。
そんな姿に、無意識のうちに、私とユウを重ね合わせていた。
(ユウと手をつないでウインドウショッピングをしてみたいな・・・。)
そんなことを考えていた。

勘のいい詩織のことだ。
私がいつもと違うことを考えていることは、きっと分かっているだろう。
しかし、詩織はいつもと同じように私とのデートを楽しんでいた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

土曜日、私はユウと東京でデートをしていた。
まだ7月なのに気の早い台風が近づいており、今夜関東にもっとも接近しそうだった。
既に雨が降りだしていて、時々強く降りつけた。
時折吹いてくる生暖かい風が台風の接近を感じさせていた。

私たちは、駅ビルのレストランでランチをとっていた。
「とんだ天気になっちゃたね。」
外の景色を眺めながらユウが言った。
「ほんと、せっかくおめかししてきたのに。」
今日は、モノトーンプリントのワンピースに白いニットのボレロをはおり、白いリボンパンプスを履いていた。
おおよそ、台風が近づいているときのスタイルではない。
今日は、都心でユウと会うことにしたので、電車で来ていた。
しかし、いつも東京に来るときは、詩織とドライブするために車で来ていたので、天気のことはそれほど考えてなくてもよかった。
私は今日も、ユウにかわいく見られたい一心で、台風のことなど考えずに服を選んでいた。

「でも、おめかしにもほどがあるよ。朝から雨が降ってるのに、そんな格好で東京まで来るなんて。」
ユウは私の天気を無視した格好を軽く非難した。
「ひどーい。今日はユウに会うからって、がんばっておしゃれして来たのに・・・。」
私は、ちょっと口を尖らせてスネてみた。
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。俺のためにおしゃれしてくれたなんて、本当にうれしいよ。」
ユウは慌ててフォローした。
「へへえ〜。」
私は舌をペロッと出して、ユウを上目遣いで見て笑った。

私は、ユウがフォローすることを承知でスネた。
私は、ユウには自然と甘えることができた。
今までユウには理解者としていて欲しいと、ずっと思っていたが、今は女としてユウに甘えられることを幸せに感じていた。

私は、自分がこんな風に男に甘えることができるとは思わなかった。
現に、一週間前にユウに再会するまでは、こんなことは誰にもしたことはなかったし、しようとも思わなかった。
そんなことをしようとすれば、心の奥底に眠っている男のプライドが目を覚まし、それを許さなかっただろう。

私はユウに再会して、自分の中で何かが変わったことを感じていた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

夕方になり、風雨はますます強くなっていた。
地元へ帰る電車はまだ動いていたが、いつ止まってもおかしくない状況だったので、私たちはユウが一人暮らしをしているアパートに避難することにした。

おそらく、今日はここに泊まることになるであろうことは覚悟している。
私は、台風が接近していることへの不安よりも、ユウと一夜を共に過ごすことへの期待と緊張に胸が高鳴っていた。
アリバイ作りもメールで詩織に了解を得た。

駅からアパートまで二人は暴風雨の中を歩いた。
私は傘が飛ばされないように一生懸命に傘の柄を握っていたが、ユウはそんな私が濡れないように、寄り添って自分の傘を私に差してくれていた。
アパートに着いた時、私は上半身は何とか濡れずにすんだが、ユウは頭から水をかぶったようにずぶぬれになっていた。

「ひどい降りだな〜。あ〜、美保のせっかくのワンピース濡れちゃったね。」
ユウは、私の服装を心配した。
「あたしは平気。それより、ユウのほうこそ髪の毛もびしょびしょだよ。」
「そうだね。でも、こんだけ濡れるとかえって気持ちいいね。ははは。あ、ちょっと待っててタオル持ってくるから。」
ユウは私を狭い玄関に待たせて、部屋にタオルを取りに行った。

「はい、これ使って。」
ユウがきれいにたたまれたバスタオルを私に渡した。
「ありがと。」
「それから、シャワー浴びなよ。こんなボロアパートだけど、風呂は改装したばかりでまだきれいだよ。これ、俺のパジャマだけど良かったら使って。」
ユウは用意周到にパジャマも持ってきていた。
「うん、そうする。」
「俺、その間にちょっとコンビニ行ってくるから。」
「え?この雨の中また出かけるの?」
「濡れついでだよ。美保、何か欲しいものある?」
「ん〜、特にないかな。」
「じゃ、適当に何か買ってくるよ。」
ユウはそう言ってまた出かけて行った。

私は、ユウに言われたとおり、浴室でシャワーを浴びた。
(ここはユウがいつも使っている場所か)
そう思うと、心臓の鼓動が大きくなった。
できるだけ平常心を保とうと思ったが、身体を洗っているうちに、どんどん鼓動が大きくなり、身体中が敏感になっていくのを感じた。

私は浴室から出て、ユウから渡された半そでのパジャマを着た。
案の定ぶかぶかだったので、足の裾を2〜3回折りたたんだ。
ユウのパジャマはよく洗濯されているようで、ほのかに洗剤の香りがした。

ユウがまだ帰ってこないので、私は髪の水分をタオルで取りながら、部屋で待つことにした。
このアパートは、バストイレ付きの6畳1Kだった。
かなり古い建物のようだったが、部屋はきれいに整理整頓され、掃除も行き届いていた。
小さい本棚には、法律や経済、歴史、行政といった種類の本が並んでいた。
私は、この部屋に入ったとき、ふと、初めて美保の部屋に入ったときと同じ雰囲気を感じた。

ユウが帰ってきた。
また、ずぶ濡れだ。
「これ買ってきたんだけど、美保、使えるかな?ちょっと見てみて。俺も、シャワー浴びちゃうから。」
そう言いながら、部屋にいる私にコンビニの袋を投げて、風呂場に入っていった。

少し濡れているコンビニ袋の中を見た。
ブラジャーとパンツが入っていた。
どちらも白いベーシックなものだ。
(これを買うために出かけたのだろうか?ブラなんかよく売ってたな。)
私はユウの気遣いが素直にうれしかったが、同時に男のユウがこれをコンビニで買う姿を想像して、少し可笑しくなった。

サイズを確認した。
ブラがB70でパンツはMサイズだった。
少し大きめだが、私のサイズの範囲内だ。
せっかくのユウの好意なので、早速付けてみた。
問題なかった。
私は高校2年から、3サイズはほとんど変わっていない。
私の記憶では、ユウはあの日まで美保だったので、私のサイズが分かって当然だ。
(これは、入れ替わった何よりの証拠かも・・・。)
いまさらどうでもいいことだが、ふと、そう思った。

しばらくして、ユウが髪をタオルでふきながら部屋に入ってきた。
ユウは、パジャマではなくTシャツに短パン姿だった。
私は、ユウの逞しい腕と、筋肉質の脚を見てドキッとした。
1週間前にキスしたときも感じたことだが、ユウは高校のときよりも逞しく見えた。
ユウは東大でも卓球を続けていたので、その成果かもしれない。

「ユウ、下着、ありがとう。ピッタリだよ。サイズよく分かったね。」
「そう?よかった。よくわかんないから適当に買ってきちゃったんだけど。」
「ホントに適当だったの?」
私は疑いの目つきをしてユウを見た。
「ううん、本当は適当じゃない。俺が美保だったときのサイズを選んだ。」
急にユウが真顔になった。
「えっ!?」
私は、意外な答えに、心臓が飛び出そうになるほど驚いた。

「冗談。そんなわけないだろ。」
ユウの表情が元のやさしい表情に戻った。
「ええ〜っ?」
私は、気持ちが振り子のように大きく揺れて、ユウが「冗談」と言ったことがどういう意味なのか一瞬分からなくなった。
「あ、美保、冗談だよ、冗談。」
ユウは、私が混乱して表情が固くなっているのを見てもう一度私に言った。

私は、今までそのことでずっと悩んでいた。
いつかは、ユウが入れ替わったこと認めてくれるのではないかと期待し続けていた。
このことは、私にとって最もデリケートな心の問題で、決して冗談など言って欲しくないことだった。

「冗談って・・・。そうだよね・・・。」
私はユウの冗談に気持ちを大きく揺り動かされて、感情が急激に不安定になり、涙が出てきた。
「ごめん、美保。」
私の涙を見て、ユウはあわてて謝った。
「もう・・・、びっくりしたよ。うん、びっくりした。本当にびっくりしたんだからっ!!ああーっ!!」
私は、ユウの胸を叩きながらユウに抱きついた。
そして、抱きつきながら声を出して泣いた。
声を出さずにはいられないくらい動揺してしまった。

ユウは私のことを黙って受け入れた。
私はひとしきり泣いて、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
「美保、本当にゴメン。美保がずっと悩んでいたことを知ってて、ひどい冗談を言ってしまった。許してくれ。」
「うん・・・、大丈夫。」
「俺、本当にバカだな。美保の力になりたいなんて言って、美保のことちっとも分かってない。」
「ユウ、そんなことないよ。あたしこそ、変なことにずっとこだわっていて、急に感情的になったりして・・・、付き合いにくいでしょ。ごめんね。」
「美保は悪くないよ。そんなに自分を責めないでくれ。」
「ユウ・・・。」
「美保。」
私たちは見つめあい、そして、キスをした。

その時、私の左のひざが、ユウの股間に触れた。
短パン越しにも、そこが硬くなっているのが分かった。
(ユウ、勃起してる・・・。)

ユウは唇を離し、今度は私を抱きしめた。
と同時に、股間を私の太腿に押し付けてきた。
私は、ペニスの硬さをハッキリと認識した。

ユウが私の身体を求めてきていることを確信した。
今日、ここへ来たということは、ユウとひとつになることを覚悟していたが、いざその時が現実になると思うと、緊張で身体が震えた。

ユウは、私を抱きしめながら、徐々に体重をかけてきた。
そして、私を抱えながらゆっくりと、やさしく押し倒した。
私は、ユウに押されるまま仰向けになった。

「美保、好きだ。」
ユウがそう囁いて、また、私にキスをした。
そして、パジャマ越しに右手で私の胸にやさしく触れた。
「あ・・・。」
ユウの手が軽く胸に触れただけなのに、全身に快感が走った。
私は、軽く身をよじって快感を受け止めた。
「あ、ごめん・・・。触ってもいい?」
その反応を見て、ユウは私に確認した。
私はユウのその慎重さが少し歯がゆかった。
「うん。」
私は、ユウから目をそらせて小さく頷いた。
ユウに見つめられたまま頷くことが恥ずかしかった。

ユウは私の身体をやさしく愛撫した。
ユウはとても慎重に愛撫し続けた。
必要以上に強く刺激したり、強引に服を脱がせたりするようなことは、決してしなかった。
私は、そのゆっくりとしたリズムにすっかり焦らされていた。
焦らされて、身体が信じられないくらいに敏感になっていた。

「電気、消すよ。」
ユウはそう言って立ち上がり、部屋の明かりを常夜灯の状態にした。
明かりを消すと、窓がぼんやりと明るく浮かび上がった。
時折横殴りの雨が窓に打ち付け、その音が強くなったり弱くなったりしていた。
台風が確実に近づいていた。

<つづく>

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■ 記憶の中の僕 ■

第1話 ファーストキス
第2話 プライド
第3話 薄れる違和感
第4話 ユウの変心
第5話 二つの人生
第6話 再会
第7話 小さな疑問
最終話 誓い

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