第1話 ファーストキス
第2話 プライド
第3話 薄れる違和感
第4話 ユウの変心
第5話 二つの人生
第6話 再会
第7話 小さな疑問
最終話 誓い

掲示板

第5話 二つの人生

夏休みも残り1週間となった今日、僕と詩織は僕の部屋で宿題の最終チェックをしていた。

僕は、その後の夏休みの大半を詩織と過ごしていた。
部活にもできるだけ参加した。
今、唯一の理解者となった詩織といることが、僕は一番心が落ち着いた。
入れ替わったことをユウに否定された精神的なショックは、詩織と過ごすことで少しずつ癒えていった。

ユウはあれから何度か連絡を取ってきたが、ユウの考えが変わっていないことをそのたびに確認すると、僕は2人きりで会うことはしなかった。
会いたくなかった。
あの日以来、ユウは入れ替わったことを一切認めなかった。


詩織は、僕とユウのことをどう思っているのだろう。
詩織は、あの夏祭りの以降の僕の話をすべて受け入れてくれた。
しかし、そのことで詩織が何らかの行動を起こすことはなかった。
僕の話を誰かに伝えた様子もない。
詩織は、ユウ自身が入れ替わりを否定している以上、自分がユウに何かを言っても仕方がない、と考えているのかもしれない。

いや、本当は僕の話を信じてはいないのかもしれない。
正確には、僕の話を信じてはいるものの、それが事実であるとは限らないと思っているのかもしれない。

だが、僕はそんなことはどうでもよかった。
僕は詩織にすべてを話せただけで十分だった。
少なくとも、詩織は僕の話を受け入れてくれた上で、僕のことを理解してくれている。
今の僕には、詩織は唯一の理解者としてかけがえのない人間だ。


僕は詩織の気持ちを知ってから、詩織の優しさ、思いやりの深さ、裏表のない気持ちなどに触れるたび、詩織にますます惹かれていった。

詩織に嫌われたくない、詩織を守りたい、詩織の役に立ちたい、詩織に愛されたい、詩織を独り占めしたい・・・

僕が美保に対して感じていた「好き」よりも、さらに強い気持ちだった。

僕は詩織を愛してしまった。
僕は、男として詩織を愛したい、と心底思うようになっていた。
僕は、このときほど裕也に戻りたいと思ったことはなかった。

だが、今裕也であるユウは元に戻ることを望んでいないばかりか、入れ替わったことすら否定している。
僕はもう、元に戻ることはないことを覚悟していた。
いや、確信していた。

そればかりでなく、ユウが入れ替わっていないことを主張するたびに、入れ替わったという自分の確信が揺らいでしまうことを感じ、それがとても怖かった。
僕は、ユウの主張に負けないように常に気持ちの中で戦っていた。
入れ替わった記憶が弱くならないように、あの時のことを必死になって心に焼き付けるようにしていた。

それでも、時の経過とともに、あの時の記憶が薄れていく。
いつか、ユウの主張に負けてしまうのではないか、という恐怖をいつも抱いていた。

今、女の僕が女の詩織を愛しても、詩織を幸せにすることはできない。
そのことは、頭ではよく理解していながらも、僕は気持ちが抑えられなくなっていた。

僕はこの身体になって、1か月以上経っていた。
入れ替わったばかりの頃に感じていた、様々な身体の違和感はもうすっかり消えていた。
最後まで違和感を感じていたトイレですら、今は何の抵抗もなくできるようになっていた。
女言葉も意識せずに話していた。
むしろ、この身体で男言葉を使うことに抵抗を感じるようになっていた。

しかし、今、詩織への抑えきれない気持ちは、男としてのものだった。
表面上は女になれても、僕の男としての内面は依然として強く存在していた。


詩織は今、僕の部屋の小さなテーブルでノートを書いている。
クッションの上にちょこんと女の子座りをして、ちょっと首を傾げながらペンを走らせているその姿は、本当に愛らしくて、僕は詩織を抱きしめたくなる。

「ふう〜っ。」
詩織が一息ついて、ペンを置いた。
「詩織、集中してたね。」
「うん、でも、これでだいたい終わった。美保、ありがとう。」
「いえいえ、わたしのノートはほとんどユウがやったようなものだから。」
「ねえ、ユウくんとは連絡取ってるの?」
「ううん。ユウは部活に集中してるし。それに、やっぱり、あれからはあんまり話ししたくなくて。」
「うん、まあ、別に無理に話す必要はないけどね。」

僕達は、ベッドに並んで腰かけ、用意しておいたオレンジジュースを飲んだ。

詩織は日ごろから、女の子らしい服装を好んで着ていた。
今日も、フリルのついた白いフレンチ袖のブラウスを着て、
すそに刺繍があしらわれたピンクのミニスカートをはいていた。

詩織は僕に気を許しているのか、ベッドに座っていてスカートが少し捲れても気にせずに太ももを露にしていた。
僕はとなりに座っている詩織の脚を、どきどきしながら眺めていた。

「あ、美保。何見てるのお?」
詩織はいたずらっこのような目つきで僕を見た。
「えっ?」
僕がドギマギしていると、ふいに自分でスカート捲りあげた。
(あっ!)
詩織のパンティーが見えた。
それは薄いピンク色で白い小さなリボンが付いていた。
「これ、かわいいでしょ。スカートの色に合わせてみたんだけど。」
僕は詩織の突然の行動に、心臓の鼓動が急に激しくなった。
「う、うん。か、かわいいけど・・・、やめなよ・・。」
僕は、詩織に背を向けて、オレンジジュースを一口飲んだ。
「あー、美保、何照れてるの?女の子同士だもん、こんなの当たり前でしょ。」
(当たり前?)
「別に照れてないけど・・・。」
僕は詩織のペースに動揺していた。

確かに部活のときの更衣室では、詩織たち女子部員の下着姿は目に入っているし、僕自身の下着姿も詩織たちには見られている。
だが、大勢の部員が同時に着替えている汗臭い更衣室と、詩織と二人きりでいる今ではシチュエーションが違いすぎる。

「ねえ、美保、あたしのこと嫌い?」
詩織が急に真剣なまなざしで僕に問いかけた。
「そんなわけないでしょ。」
「じゃあ、好き?」
以前、僕は詩織に「好き」と告白されたことがあるが、自分の気持ちを詩織には伝えていなかった。
僕は、詩織のことは堪らなく好きになっていたが、それは、あくまでも男としての感情であり、それをこの身体で伝えることは憚られたということもある。
「うん、好きだよ。」
僕は女友達として詩織が好き、という気持ちで答えた。
「うれしい。」
詩織は、少し顔を赤くして静かに喜んでいる。
(詩織は僕の「好き」をどう受け止めたのだろうか?)
うつむき加減にはにかんだ詩織は、抱きしめたくなるほど可愛かった。
(キスしたい・・・。)
僕の中に、シンプルだがストレートな欲望が湧いてきた。

すると、詩織がふと顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめた。
「ねえ、美保、キスしていい?」
詩織の方から僕に求めてきた。
僕は驚いた。

僕は、詩織にキスしたい、と思っていた。
だが、それは男の感情がそうさせているのであって、女の身体の僕が詩織にキスを求めるなんて非常識だし、第一、詩織に嫌われるはずと思って、口に出すことはできなかった。
ところが、今、詩織が僕にキスを求めている。
(詩織はどういう感情で僕にキスを求めてきたのだろうか?)
詩織が僕のことを「男」として見ているのか、それとも「女」として見ているのか、僕には判断がつかなかった。
分からなかったが、僕と詩織が求めているものは同じだった。

「うん、いいよ。」
僕は、思わず自分の欲望を素直に表現してしまった。

「美保・・・」
「詩織・・・」

僕達はお互いの名前を呼び、ベッドに腰掛けながら身体を少しひねり、腕を取りあった。
そして、ゆっくりと唇を重ねた。
僕は詩織とのキスにこの上ない幸福感を味わっていた。


僕達は唇を離し、目を開けた。
目の前には、はにかんだ詩織がいた。

あの夏祭りの夜のようなことは起こらなかった。

「よかった。詩織がいる。」
僕はホッとして呟いた。
「うん、よかった。」
詩織もうれしそうに答えた。

僕は詩織がたまらなく愛おしくなり、もう一度キスをした。
そして、僕は身体をひねりながら、詩織を抱きしめた。
抱きしめた勢いで、詩織はそのままベッドに仰向けになり、僕は詩織を抱きしめたまま一緒に倒れ込んだ。
詩織の胸のふくらみを感じた。
詩織の髪のほのかな香りが漂っていた。

もう僕は自分の欲望を止められなくなっていた。

僕は唇を離すと、今度は、右手で詩織の左の乳房に触れた。
「あ、ダメ・・」
詩織は小さな声で呟いたが、身体は抵抗しなかった。
僕はそのまま、ブラジャー越しに左右の乳房を愛撫した。
「ん・・・ん・・・」
詩織は呼吸をしながら声を漏らしている。

すると、今度は詩織が僕の胸に手を伸ばしてきた。
詩織の右手が僕の左の乳房に触れたとき、僕の上半身に快感が走った。
僕の乳房があまりにも敏感になっていることに驚いた。
そして、僕達はお互いの乳房を愛撫し続けた。
僕は既に自分の下半身が反応してしまっていることを感じていた。

僕は、自分の右手を、ピンクのミニスカートから覗く詩織のきれいな太腿に持っていった。
そして、左足の内腿に触れつつ、少しずつスカートを捲った。
「イヤ・・・」
詩織は恥ずかしがりながら目を閉じたが、やはり身体は抵抗しなかった。

僕は、そのままスカートの中に手を入れ、股間に触れた。
「あ・・・」
詩織が小さく声を上げた。
僕は詩織の反応にますます興奮し、パンティーの上から少しずつ刺激した。
そして、僕は欲望のまま、パンティーの中に直接右手を入れて、その敏感な部分に触れた。
濡れていた。
(こんなに濡れている・・・。)
僕は詩織が感じていることを確認すると、自分のそこも同じように濡れてくるのを感じた。

(触りたい・・。)
僕は、自分の濡れている場所も確認したくなってしまった。

僕の今の服装は、グリーンのポロシャツにベージュのショートパンツを履いていた。
そこに触れるには、ショートパンツを脱がなければならない。

今、お母さんが1階にいる状況でそこまですることは、あまりにもリスキーだった。

だが、僕はもう、そこに何かの刺激が欲しくてたまらなくなっていた。

僕は、詩織を抱きしめ、下半身を密着させた。
詩織の脚と僕の脚が触れ合った。
詩織の見たままの滑らかな素肌の感触が、僕の脚に伝わり、しびれるような快感が走った。
詩織は目を閉じて、僕の動きを受け止めている。
僕達は、抱き合いながら脚を絡ませ、その素肌と素肌が触れ合う快感に浸った。

僕は股間を詩織の左の太腿にこすりつけた。
新たな快感に再びそこが濡れた。

僕はさらに股間をこすり、同時に右手で詩織の股間を愛撫した。
詩織は時々目を開け、快感に満ちた表情で僕を見つめた。

僕は、自分のパンツが汚れてしまうことも気にせずに、脚を絡ませ続けた。
詩織も僕に抱きついたり、僕の胸を愛撫したりして、僕の動きに応え続けている。

僕達は快感がピークに達するまで愛撫し続けた。

僕達は行為が終わったあとも、しばらくそのままベッドに横になり、お互いにライトな愛撫を続け、その余韻に浸っていた。

「詩織、濡れてたね。」
僕は詩織をからかった。
「イヤ・・・」
詩織は真っ赤になって顔を向けた。
詩織の想像通りの反応がとても可愛かった。

「ねえ、ちょっとトイレ借りるね。」
詩織がトイレにいくために、部屋を出て行った。
さすがに、ここで後始末はできないのだろう。

僕はこの間に自分の股間を確認した。
ショートパンツの股間に小さなシミがあった。
(やばっ)
僕は慌ててショートパンツを脱いだ。
パンツの股間も想像以上に濡れていた。
(こんなに・・・)
僕は慌てて股間の後始末をして、パンツを履き替え、ショートパンツもジーンズに履き替えた。

詩織が部屋に戻ってくると、今度は僕がからかわれた。
「ああ〜?美保。着替えてる〜。どうしてえ〜?」
「えっ?あ、汗かいたから・・・」
「ふ〜ん。下だけ汗かいたんだ。なんでかなあ〜?」
といいながら、詩織はさっき僕が脱いだショートパンツを見つけ、手に取った。
「どれどれ・・」
「あーっ!!だめっ!!」
僕は、ショートパンツを詩織の手から強引に取り返した。
僕は猛烈に恥ずかしくなり、顔が赤くなるのが分かった。
「美保、かわいい!」
詩織が、僕に抱きついてきた。
詩織の胸が、また僕の胸と重なった。
(また、着替えるようになっちゃうよ。)

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


新学期が始まった。
僕は、裕也に戻ることなくこの日を迎えてしまった。

卓球部員とは夏休み中に何度もあっていたが、クラスメートのほとんどは僕が美保になってから初めて顔をあわす。
僕は久しぶりに人に会うことに緊張していた。
入れ替わった頃の緊張感がよみがえり、教室に入る足取りも重かった。

しかし、僕の心配は杞憂に終わった。
僕は、この頃すでに表面的には女の子として普通に生活できていた。
このため、周囲からは違和感なく香川美保として認識された。
もちろん、美保を良く知る友達にすれば、夏休み前との違いを感じていただろうが、そもそも夏休み明けというものは誰しも変化があるものであったため、美保の変化もその許容範囲内だったようだ。

だが、僕が一番困ったのは、やはり、勉強に関することだった。
先生は僕が当然優秀な生徒として取り扱うのだが、たびたび、先生の期待を裏切る受け答えをしてしまった。
はじめのうちは、先生も意外な表情をしていたが、それを繰り返すうち、徐々に期待されなくなっていった。

一方でユウは、確実に頭角をあらわしていった。
部活においては既にユウのリーダーシップは発揮されていたが、
クラスにおいても、夏休み前の裕也とは明らかに違う、自信に満ちた態度でクラスを引っ張りつつあった。

そして、それは2学期の中間試験でハッキリした。

ユウは、いきなり学年3位に躍り出た。
ユウの実力からすれば当然だったが、周囲はそれに驚くとともに、これを境にして、
急速にユウはクラスにおける立場を上げていくことになる。

一方で、僕は大いに成績を下げた。
もちろん、それは以前の美保の成績に比べてのことであり、裕也の以前の成績と比べれば特段下がったわけではなかった。
だが、これによりクラスのリーダー的な存在だった美保は、その他大勢に埋もれていった。

僕とユウは、ユウの変心後は関係がギクシャクし夏休み中は距離を置いていた。
ユウは僕に度々メールを入れてきたが、僕はユウと会う気がしなかった。
だが、2学期が始まってからは、また自然と話をするようになり、夏休み前と同じように仲の良いクラスメートの関係となっていた。
やはり、僕にとってユウは特別な存在であるし、なにより、夏休み前との関係を維持するのが最も自然だったからだ。
ただ、夏休み前までは、美保が積極的に裕也に話しかける関係だったが、2学期に入ってからは裕也から美保に話しかけることが多くなっていた。
しかし、あの夏祭りの夜のことについては、お互い触れることはなかった。

僕は、ユウが変心した後も、いつかはユウが入れ替わったことを認めるてくれるだろうと期待していた。
だが、僕の期待が実現することはなかった。

しかし、僕には、今回の中間試験の成績がこそ、入れ替わった何よりの証拠と思えた。

僕は中間試験の成績が発表された翌日、思い切って昼休みにユウを屋上に呼び出した。
「ユウ、中間の成績すごい良かったね。おめでとう。」
「うん、ありがとう。」
僕はまずはユウの成績を讃えた。
「ねえ、ユウ、今回の成績を見れば分かると思うけど・・・・、」
僕はここまで言って、少し躊躇してしまった。
(また、この話を蒸し返すとユウは気を悪くするかな・・・)

僕は、もしかしたらユウの言うことが正しいのかもしれない、という気持ちを100%否定しきれないでいた。
入れ替わってから3ヶ月経ち、あの時の記憶が少しずつ薄れていくなかで、ユウの言うことを強く否定する気持ちも少しずつ弱くなってきていた。
もし、ユウが本当に努力をして成績を上げたのであれば、これほど人を馬鹿にした話はないだろう。

「何だよ、美保。言いかけて。」
「あ、ゴメン。あのね、ユウ・・・。気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・。」
僕は慎重に前置きをした。
「美保、もしかして、俺の成績が上がったことかな?
前々から美保が言ってた、俺と美保が入れ替わったって話のことだろ?」
「えっ!?あ、うん・・・。そう。」
僕は、ユウに先に言われて戸惑った。
「俺さ、自分でもびっくりしてるんだけど、あの夏祭りの日に美保と気持ちが通じ合えたことで、最近いろんなことに自信が持てるようになったんだ。」
ユウは自分のことを話し出した。
「ただ、あの日以降はちょっと微妙な関係になってしまったけど・・・。でも俺、今勉強が楽しいんだ。いろいろなことを覚える、知る、学ぶということが面白くてしょうがない。」
「・・・・。」
僕は黙って聞いていた。
「美保は、まだいろいろ悩んでるようなんで、俺だけ浮かれたことを言ってて悪いんだけど・・・。」
「ううん、大丈夫。わたしの成績は予想通りだったし、今までと変わらないから。」
「うん・・・、美保がそう言うなら、それでいいんだけど、やっぱり、今回美保すごく成績下がったから・・・。なんて言ったらいいかわからないけど、美保、まだ元に戻っていないというか・・・。」

僕は、ユウの言葉が苦しい言い訳に聞こえた。
だが、一方でユウが変わっていないこともよく分かった。
ユウがなぜここまで入れ替わったことを否定するのかは未だに分からなかったが、僕がここで入れ替わったことを主張して、ユウとの関係がまたギクシャクしてしまうことも避けたかった。
ユウが否定している以上、僕が一人で入れ替わりを主張したところで、意味がなかった。

僕はもう、ユウに入れ替わったことを主張することを止めた。

「ユウ、わたしは大丈夫だよ。もう、以前の美保のようにはなれないかもしれないけど・・・。」
「美保・・・。」
ユウは僕をやさしく見つめた。

「美保、俺、あの時キチンと伝えてなかったけど・・・。」
ユウの表情が真剣になった。
「俺、美保のことが好きだ。付き合ってくれないかな?」
「えっ!?」

僕は、美保のことが好きだった。
そして、あの夏祭りの夜、僕は美保とはじめてのキスをした。
だから、僕とユウはお互いに好き同士のはずだ。

だが、今の僕には素直には受け入れられない。
ユウはそれを認めていないが、僕はあの時まで裕也だった。
その僕が裕也と付き合うなんてできない。
できるわけがないし、したくない。
ユウの気持ちはうれしかったが、僕はユウと恋人の関係は望んでいない。
ユウには事情を分かり合える理解者でいて欲しかった。

「ダメ・・かな・・?」
今目の前にいるユウは、最近の自信に満ちたユウではなく、入れ替わる前の自信のない裕也のようだ。
「ごめん・・。わたしはちょっとそういう気にはなれない。でも、今までどおり、友達でいたい。」
僕は、正直な気持ちを伝えた。
ユウは少しがっかりした表情を見せたが、すぐにまた、やさしい表情に戻った。
「うん、わかった。俺も美保を困らせるようなことはしたくない。美保が元に戻ってくれるまで、いつまででも待つ。いや、別に元に戻らなくてもいいんだ。俺は今の美保が好きなんだから。」
僕はユウの気持ちは素直にうれしかったが、それに応えることはできなかった。
「ごめんね。ユウ・・・。」
「美保、謝らなくていいよ。でも、俺は美保を幸せにしたいんだ。しなければならないんだ。」
「しなければならないって・・・。そんなに深刻に言わないでよ・・・。」
「あ、ごめん。これは俺が勝手に思っていることだから、美保は気にしないで。」

僕はユウが最後に言った言葉が引っかかったが、予鈴がなったので僕らは教室に戻った。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

白い部屋の白いベッドの真っ白なシーツの上で、僕は詩織と愛し合っている。

僕は、最大限に勃起した自分のペニスを、詩織の股間に近づけた。
詩織は目を閉じて僕に身を任せている。
僕は詩織の股間にそっと手を触れた。
そこは、ペニスを受け入れる準備がすっかりできていた。
それを確認すると、僕はペニスをゆっくりと挿入した。
詩織はペニスの強引な侵入に、眉間にしわをよせ、自分の下唇を軽く噛んだ。
僕は、詩織の表情を確認しながら、さらにゆっくり挿入を続けた。
ついに一番奥まで到達すると、僕はペニスに一層の力を込めて、その快感に浸った。
同時に、詩織は口を開き、「あ・・」と声を漏らした。
進入してきたペニスが詩織の中を刺激し、詩織にはそれがいつしか快感となっていた。

僕は徐々に動きを激しくしていった。
詩織はその都度、快感に表情を歪め、声を漏らした。

ついに、僕は射精が近づいていることを感じ、詩織にキスをした。

が、僕が詩織にキスをしたその瞬間、なぜか、僕がユウに抱かれていた。
目を開けると、僕の上にユウがいた。

「えっ!!」

僕は、「はっ」として、もう一度目を開けた。
いや、目が覚めた。

僕は、薄暗い明かりの下、いつもの美保のベッドの中にいた。

夢だった。

股間に手を入れた。
すっかり濡れていた。
さっきまで力強くそそり立っていたペニスは、そこにはなかった。

僕は詩織と愛し合う夢を見ていた。
僕は、裕也として詩織とセックスする夢を見てしまった。

僕は、僕のことを一番理解してくれる詩織といるときが一番心が落ち着いた。
夏休みの終わりに詩織とキスをして以来、僕と詩織とは特別な関係になっていた。
二人きりになれる場所では、お互いに身体も求め合った。
だが、僕は、詩織と抱き合うたびに、自分が男でないことが残念でならなかった。
即物的に言えば、ペニスが欲しかった。

日常生活では、まったく気にならなくなっていたが、詩織と抱き合うときには、ペニス願望が急激に湧き上がった。
詩織に挿入したい。
詩織を悦ばせたい。
そして、詩織に射精したい。
今の僕にはできるはずもないことだが、詩織と愛し合っているときには、その願望が常につきまとった。

いま、その願望が夢に現れた。
だが、結局射精できないまま、いつの間にかユウに抱かれる女になっていた。

虚しかった。

夢の中でも射精できない。

僕は裕也の頃のオナニーでの射精の感覚を覚えていた。
その大きな快感のピークを覚えていた。

僕は、美保になってからも何度となくオナニーをしたが、未だに射精の快感を超えられないような気がしていた。
射精の快感が記憶の彼方に埋もれつつある今となっては、その快感の大きさがとてつもなく大きかったように思われ、もう二度とその快感を得ることができないと思うと、息ができなくなるほど胸が締め付けられ、苦しかった。

僕は射精できなかった物足りなさを補うように、ベッドの中でオナニーを続けた。
いつものように、クリトリスを刺激し続けた。
(射精したい・・・)
僕はいつも以上に激しく刺激した。
しかし、いつまでたっても射精できない。
そして、いつもの女の快感のピークに達してしまった。

結局、射精の快感のピークまで登れなかった。
僕には、そう感じた。

いつもの快感に達したはずだったが、それに満足できない自分がいた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

ユウは、2学期に入ってからも、部長として男子の部活を積極的に引っ張った。
ユウが部長になってからは、男女の練習試合はやらなくなっていた。
ユウが以前言っていた改革のひとつなのだろう。

こんな風に、ユウは、まず練習方法を合理的にした。
成果を挙げている他校を実地に調査し、情報を整理したうえで、それを根拠にうちの部に適した練習方法を取り入れていった。
そして、徹底的な競争原理を取り入れた。
部員間の練習試合の結果を逐一記録し、部員全員をランキング付けした。
ランキング方法は公開し、誰しもが納得できるようにした。
ランキングは毎週更新し、レギュラーはそれに基づいて決定した。
誰かが恣意的にレギュラーを決定するのではなく、レギュラーはランキングで機械的に決定するようにした。
2年からレギュラーを張っていたユウや翔にとっては、自分が簡単にレギュラーを追われるリスクがあったが、それをあえてユウと翔が提案したということが、二人が部員からの信頼を得ることにもなった。
この方法は、メリットデメリットの両面があったが、うちの部活においては、部員のモチベーションを大いに上げ、部内が急速に活性化した。

また、ユウは積極的に他校に出向き、人脈を作った。
その結果、他校との交流が劇的に増え、練習試合を数多く行うとともに、技術交流も行い、他校の良いところをどんどん取り入れていった。

ユウ自身も後輩から指導を頼まれれば、何時まででも付き合った。
レギュラークラスの実力のある者に対しては、積極的に指導者として役割も果たすように求めた。
また、実力に関係なく、他人へアドバイスをしやすい雰囲気作りにも努めた。
往々にして、人のアドバイスは批判的に感じやすいため、各自がそれを真摯に受け止めるよう、繰り返し部員に周知した。
人によっては、自分自身は実力はないが、人の実力を評価する目が確かなものもいた。
ユウは、人それぞれが持つ性質を的確に見抜き、たとえ実力がなくても評価の確かな者の意見は積極的に受け入れた。

さらに、ユウは、自分の改革が一代で終わってしまうことのないように、次の指導者の育成も怠らなかった。
もちろん、それが連綿と続くように、基本的な部分については文章にして、卓球部の心得として受け継ぐようにした。

その結果、ユウの卓球部改革は大成功した。
ユウが卒業した後も、ユウのやり方は受け継がれ、県内でも卓球の有力校にまで成長した。
ユウ自身もインターハイまであと一歩のところまで行った。

おそらく、ユウはこの卓球部改革により、組織のリーダーとして面白さを実感したに違いない。
もともとリーダーの資質のあったユウは、実際に組織のリーダーとなり、自分の信念に基づいて、その組織をまとめ、引っ張り、改革した。
自分のやり方が間違っていないこと、自分の信念に基づいて行動し結果がついてきたことが大きな自信となったはずだ。


同時にユウは、石川裕也となって十分に実力を発揮できる環境となり、勉強も今まで以上に努力しはじめた。
ユウは、中間試験以降も成績をさらに伸ばし、学年トップを維持するまでになった。
そして、周囲の期待に応え、見事東京大学に合格した。

うちの高校は一応進学校ではあったが、さすがに東京大学に合格することは1年に一人いるかいないかの快挙だった。
まして、現役で合格するのは5年ぶりとのことだった。

両親も喜んだに違いない。
僕が裕也のままだったら、絶対にありえないことだった。
僕は、拭いきれない寂しさはあったが、今、裕也の家族が幸せになっていることを思えば、ユウが裕也をここまで「進化」させたことに素直に感謝した。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

一方僕も、香川美保として、何不自由なく高校生活を過ごした。
2年の2学期の中間試験で成績を激しく落としたときは、さすがに両親からは心配されたが、僕自身が落ち込むこともなく、学校を休むこともなく、その後の高校生活を普通に過ごしていたので、ほどなく、成績について追求されることもなくなった。
美保の成績は落ちはしたが、それでも中位は維持しており、進級が危ぶまれるレベルではなかったということもあっただろう。

また、僕に美保のようなリーダーシップがないことにより、学校では頼られる立場を失っていたが、このことについても、香川家にとっては美保が必要以上に自己主張をしなくなり、性格が穏やかになったことが、むしろ好ましい変化と受け止められたようだ。

さらに、部活については、そもそも香川家で美保の部活が話題になることは全くといっていいほどなかった。
ラバーやシューズなどの消耗品については、もともと美保は好きなものが買ってもらえる環境だったし、両親は、そのことに特に関心を示すこともなかった。

僕は美保の価値をすっかり落としてしまったと考えていたが、僕の実力や性質は、香川家が求める美保に、結果としてうまく適合していた。
僕は、そんな香川家で生活することへの違和感は、いつしかまったく消えていた。
むしろ、石川裕也だった頃の僕より、香川美保の僕のほうが本来の僕の姿なのではないか、と思えるほど、僕は香川美保としての生活にすっかり馴染んでいた。
そして、僕自身、それに満足していた。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

僕とユウは本当に入れ替わったんだろうか?
つい、そう考えてしまうほど、今の二人はそれぞれの環境にフィットしている。

ユウは、僕の裕也とはまったく違う人生を歩み始めてしまった。
僕も、ユウの美保とはまったく違う人生を歩んでいる。
別々に進んでいた二つの人生があの夏祭りの日に交差して入れ替わり、また、そのまま別々に進んでしまった。
そして、その2つの距離は今どうしようもないほど離れてしまっている。

もう僕は裕也には戻れないし、今更戻りたくない。
戻ったところで、誰も幸せにならない。

僕は、記憶の中に僕の裕也を抱きながら、美保としての人生を歩んでいた。

<つづく>

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