IF三話 〜 第3話 裕也の道、ユウの道 〜
IF四話 〜 第4話 悪夢 〜
IF五話 〜 第5話 詩織 〜
IF六話 〜 第6話 夏休みの価値 〜
IF七話 〜 第7話 美保のいない世界 〜
IF八話 〜 第8話 The Blank of 4-Years 〜

これは、ダークサイドさんが執筆した「記憶の中の僕」の「IF七話」です。


「おそいなぁ、美保
一週間も会わなかったのって、夏休み以来だもんねぇ。」
冬休みも終わり、新学期。
詩織はお土産の入った手提げをちらちらと見ながら裕也が来るのを持っていた。
周りでは仲の良い者達どうしで冬休み中の事に花を咲かせている。
詩織も休み中のことを美保と話したくて彼女が登校してくるのを今か今かと待っている最中だ。
「全く、本来なら美保の晴れ着姿が堪能できたはずなのに。」
そう、本来詩織は裕也と初詣に行く約束をしていたのだ。
それが突然、両親が母親の実家への挨拶に詩織を連れて行くと言い始め、連れて行かれてしまったのだ。
勿論、詩織は家に残ると両親に猛抗議した。
しかし普段は詩織に甘い両親も今回ばかりは折れる事無く、連れて行かれてしまったのだ。
これには理由があった。
実の所、詩織には内緒にしていたが見合いが予定されていたのだ。
特にBFのいない詩織に婚約者をあてがい、将来田舎へ帰ってきて貰おうという母方の祖母の思惑が。

立食パーティを開けば
「詩織さん始めまして。
僕は深山 俊夫といいます。」
「そう。
あら、この唐揚げおいしい。」
[その、詩織さん?」
「貴方も突っ立ってない食べた方が良いわよ、結構おいしい料理が揃ってるし。」
「あの、僕は、」
「今度はあっちのも食べてみようっと。
それじゃ。」
「あ、・・・・・」

とか、

バーベキューパーティを開けば
「へぇ、この肉結構いけるじゃない。」
「気に入ってもらえて何より。
その肉はウチの牧場で育てた牛の肉なんですよ。」
「へぇ、こんな美味しいの、うちの方じゃなかなか食べられないわ。」
「はい、将来、ブランド牛の仲間入りする事が夢なんです。」
「そう、頑張ってね。
私も期待しているから。」
「よろしければ一緒に・・・」
「牧場経営って大変でしょうね。
私には絶対無理!
一緒に苦労してくれる奥様がいてこそでしょうしね。」

とか、アプローチをかけてくる男性陣に全く興味を示す事は無かった。
実際、詩織が何を考えていたかといえば、

(美保の晴れ着姿見損ねた、せめて美味しいものくらい腹いっぱい食ってかなきゃ。
ったく、男共なんてお呼びじゃないんだから、人の食事の邪魔すんじゃないわよ。)

だったのだから。
本人的には嫌な思いをして帰ってきた詩織は裕也に対して愚痴をこぼしたくて手ぐすねを引いて待っていたのだ。
しかし、詩織の希望を余所に、予鈴が、そして遂に本鈴が鳴り響く。
中々来ない裕也が気になり廊下で待っていたものの本鈴がなってしまった以上は諦めるしかなく、詩織はしぶしぶと自分の席へと戻るしかなかった。

「美保ぉ、こうなったら放課後押しかけてでも愚痴を聞かせてやるぅ。」
何時まで待っても登校してこない裕也に腹を立てた詩織はそう呟きながら黒い気を撒き散らしていた。
しかし、登校してこない裕也を気にしていたのは詩織だけではなかった。
(どうしたんだろう?)
ユウも何時までも登校してこない裕也のことを気にしていた。
あの、正月に見た消えてしまいそうな後姿の印象が残っていたからだ。
そんな2人の思いとは関係なく、本鈴から少しして、担任が教室へ入ってきた。
教室に入ってきた担任は教壇から生徒を見回すと裕也の席以外に空席が無いのを確認すると生徒たちに告げた。
「おはよう。
みんな正月は楽しんだかな?
全員が元気よく揃って登校してくれて何よりだ。」

(全員?)
その言葉に全員が疑問符をあげた。
そう、クラスメートから見ての美保、裕也が登校しておらず、空席のままなのだ。
「せ、先生、美保が、香川さんが登校していません。」
詩織は反射的に立ち上がると担任にそう告げた。
担任はその言葉を聴くと苦い顔をして生徒たちに告げた。
「みんなのクラスメートだった香川 美保は本日付けで本校を退学した。」
担任の言葉を聴いた生徒たちは担任が何を言っているのか理解できなかったかのようにシーンと静まり、そして爆発した。
「うそぉ。」
「なんで、美保が?」
「あいつ、成績良かったジャンか。
辞める理由なんてあるのかよ。」
「別に美保の家の会社が危ないなんて聞いた事ないぞ。」
「むしろ、こんな時期なのに好調らしいわよ。」
「じゃなんてなんだよ。」

クラスメートたちが騒ぐのも無理は無かった。
ユウや詩織たちの通う高校はそれなりに名の通った進学校であり、授業についていけず辞めていくものが年に数人程度出る。
しかし、成績は上位に食い込んでいる美保が成績不振で辞めるとは思えない。
それでは付いていく事が苦痛で辞めたのか?
確かに、以前ほど楽しそうに勉強はしていないが精神的に負荷がかかるような様子ではなかった。
その上、特にクラスでハブられているわけでもなく、学校生活が嫌でしょうがなかったそぶりも無い。
正直、何一つとして美保が辞める理由がクラスメートには思いつかなかったのだ。


「あ、お前ら、静かにしろ。
一応、我々教師陣も香川の事を引き止めたんだ。
でもな、アイツの決心は固くて退学届けを撤回させる事はできなかった。
で、一応理由も聞いたんだけどな、何でも『見つけなければいけないものがある』んだと、その為には学校へ通う時間も惜しいって言う話で。
結局、『見つけるもの』が何かは教えてくれなかったけどな。」


クラスメート大多数の反応に対してユウと詩織の反応は違っていた。
ユウは騒ぐことも無く、担任の言葉を聴いて'やっぱり'と考えていた。
'あの'美保の後姿を見てユウはなんとなく、今日の事を予感していた、そんな気がしていた。
そして、詩織はというと騒ぐ事無く静かにしていた。
いや、正確には騒ぐ事さえ出来ない状態、あまりのショックに意識を失っていた。




IF七話

〜 第7話 美保のいない世界 〜



「美保の奴、私に相談もしないで学校辞めるなんて、何考えてんのよ。」
詩織は呪詛の言葉を並べながら、学校が終わると同時に部活を振り捨てて美保の家へと向かっていた。
「親友だと思ってたのに。
親友だと思ってたのに。
相談一つしてくれないなんて。」
詩織は辺りに瘴気を撒き散らしながら一路、美保の家へと向かっていた。


一方、ユウも一足遅れた形で香川家へと向かっていた。
何かを思いつめたような表情をしており、人がいても自然と道ができそうな状態で、黙々と歩いていた。
(あれが・・・あれが最後だなんて納得できない。納得なんてしない。)


「ユウ君!」
「詩織・・・さん・・・・」

ユウの方が足が速かったのか、近道だったのか、偶然にも詩織とユウは香川家の前で鉢合わせしていた。
お互い相手の目的が分かったのだろう。
ユウは押そうとしていた呼び鈴の前から身体をよけると詩織に場所を譲った。
傍から見てどう見えていたかは分からないが、ユウは別にレディファーストとか詩織の方が相応しいから場所を譲ったわけではなかった。
ただ、ただ単に瘴気を纏った詩織が怖かったからだけであるがそれを詩織に言うほどユウも間抜けではなかった。


「はい、どなたでしょうか?」
呼び鈴に反応してインターフォンから女性の声が聞こえてくる。
「美保さん、居ますか?
同級生の詩織といいますが。」
『美保』という言葉に反応してインターフォンの向こう側で慌てた様子が聞こえてきたが詩織もユウも黙って待った。
そして帰ってきたのは『ウチには美保というものはおりません』という返事だった。
「お、おば様、居ないって、そんな筈は。
昨年末、お会いしたときには・・・」
「ウチに娘はおりません。
うちの子供は息子、ただ一人です。」
「おばさま!」
詩織はなおもインターフォンに対して声を張り上げるが、相手は沈黙したままで取り付く島も無い。
なおも声を張り上げようとする詩織にユウは黙って手を置いた。
「な、なによ。」
鬼のような形相で振り返った詩織に対し、ユウは悲しそうな表情を変える事無く、ある方向を指差した。
その方向を振り向いた詩織の視線の先にあったのはゴミ収集の場所。
そして見覚えのある家具。
美保が使っていたものに見える。
詩織はすぐさま駆け寄るとそこにあったものを見て崩れ落ちた。
そこにあったのは見慣れた家具類。
美保の部屋にあったものに間違いなかった。
「詩織・・・・・」
「うそよ、こんなの・・・・・こんなの嘘よぉ」
詩織は壊れた携帯電話に気が付くとそれを拾い、胸に抱いて慟哭を挙げた。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「・・・・・」
ユウは人の変わり別人のようになった詩織に声をかけることができず、教室にただ座っている様子を見ている事しかできなかった。

裕也が独り居なくなったところで学校は変わりなく回っていく。
最初のうちは話題に上っていた美保の退学騒ぎだったが当人が既にいない事や、その理由が不明である事もあっていつの間にか話題にならなくなっていた。
それでも仮に裕也が美保として部活の部長にでもなっていれば話は別だったろう。
しかし、特に部活に属するわけではなく、仲のよい友達が詩織一人の状態へと変化していた環境では尚更である。
いつしかクラスの中でも香川 美保の存在は忘れられていった。
そんな周りとは違い、忘れるどころか色濃く影響を受けたのは詩織とユウの2人であった。

ユウは必死で平静を装っていたようだが2月にあった定期試験の結果を見ればあきらかで、なんと一気に40番台まで後退したのだ。
詩織にいたっては新学期初日に登校したっきり、授業が始まっても登校しなかったのだ。
詩織が学校に来れるようになったのは新学期が始まって二週間過ぎてからというありさま。
その上、再び学校へ出てきた詩織はまるで別人のようだった。
明るく人懐っこい雰囲気は消え、まるで幽鬼のように目だけが植えた獣のように輝いているかのような雰囲気へと変化していた。
変化したのは雰囲気だけではなかった。
部活へ退部届けを出すとまるで人が変わったように勉強にまい進した。
姿を消した美保の事を忘れようとしている事が周りの目にはあきらかだった。
しかし、その鬼気迫る様子に誰一人、ユウでさえもそんな詩織に声をかける事は出来なかった。
実際の所、クラスメイトは詩織に美保の事を聞きたくて仕方がなかったのだ。
成績優秀にも拘らず退学した美保、親友だった詩織なら何か知っているかもしれない。
そんな興味本位から詩織に声を掛ける勇者は何人かいた。
結果は芳しく無いどころではなかった。
美保の事を聞かれるたびに詩織の周りの空気は更に黒く冷たくなる。
その上、最初の頃は詩織は泣き出してしまうのだ。
「なにも、美保は何も教えてくれなかったの。」
そう、呟くのが精一杯で、普段の幽鬼のごとき詩織とは同一人物とは思えないさまで泣く様子を見てクラス内では何時しか、美保の話題は禁句になっていた。


しかし、時間がたてば感情にも落ち着きが取り戻せてくる。
ユウと詩織の学校も他の学校と同様、3年への進級に際し、理系コースと文系コースへと別れる。
そのクラス分けの為に3学期定期試験の終わった後で各個人に対して希望コースのアンケートが実施される事になっていた。
基本的には各個人の希望、意思が尊重されるが明らかに問題がありそうな場合、本人、場合によっては保護者も呼び出される場合がある。
その呼び出し組みの中にユウと詩織も含まれていた。

ユウの場合、それまでの成績、嗜好と希望の不一致が原因だった。
「裕也君、君は文系を希望しているが本気かね?
君の成績だと理系の方が向いていると思うのだが。」
「ええ、そうかもしれません。
でも、僕は文系に行ってやりたい事があるんです。」
「やりたい事?」
「はい、実際できるかどうかは入れた学校次第なんですけど。
でもチャレンジしてみたいんです。
その為には理系より文系のほうが。お願いします。」
ユウの机に頭をこすり付けるようにして頼み込む姿を見て仕方なく教師が折れた。
「まぁ、夏以降の君の成績なら問題ないとは思うが・・・・・
しかしなぁ。
でも、そこまで言うのなら。」
等と言うやり取りはあったものの何とか説得して文系コースへと進路を決めた。

一方、難儀だったのは詩織の方だった。
「詩織君の成績で理系というのは、正直無謀としか。」
「判りました。文系コースで構いません。
但し、大学は理系を受験しますのでご承知ください。」
「い、いや、ご承知くださいといわれても、文系の勉強してながら理系を受験するってそれ、むちゃくちゃだよ。」
「理系コースを認めて頂けないというのであれば仕方ありません。
将来は理系に進むと決めましたから、浪人しても理系へ行きます。」
「いや、詩織君の成績であれば文系なら十分いいところへいけるんだよ?」
「文系に進む気は金輪際ありません。」
担任も幽鬼のような雰囲気の中、爛々と輝く眼でそう言い切られては話が続くはずもない。
教師はこのままでは説得できないと考え、仕方なく、詩織の両親を呼び、2人から説得してもらうべく面談を再設定する事にした。
しかし、結果から言えばそれは無意味だった。
両親の説得も全く効果なく、一切の迷いなく理系進学を望む詩織の姿勢に最後は両親も詩織側について担任に理系コースへのクラス割を望む状態にまで追い込まれてしまえば担任には頷くしか道はなかった。
「判りました。
クラス割りは理系コースにしましょう。
但し、私が最後まで反対した事は忘れないでくださいね。」
「はい、ありがとうございます。
良かったわね、詩織ちゃん。」
「ありがとうございます、先生。」
頭を下げ、詩織たちが出て行った後、担任は精神的疲労からしばらく立ち上がることが出来なかった。
しかし、この苦労は担任の意図しないところで報われる事になるがそれは後の話で、精も根も尽きた教師は翌日、学校を休むほどだった事を記しておく。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


進級前、色々あったものの、ユウも詩織も無事、3年への進級を果たしていた。
もちろん、コースの分かれた二人はクラスが分かれていた。
互いに個人的な交流がないこともあり、双方とも相手の選択したコースは新学期になってクラス分けが発表されるまでわからない状態だったのだ。
それが故に詩織の理系選択にはユウは驚いた。
当然詩織を知る回りのものも驚いたが、ユウは驚愕で開いた口がふさがらないほどのショックを受けていたのだ。
そう、ユウは詩織が文系よりだと知っていたので、うまくいけば同じクラスになれると考えていたのだ。
しかし、結果は違った。
ある時、ユウは詩織に尋ねてみたのだ。何で理系を志したのかを。
正直たずねた後、後悔する羽目になったのだが。
「詩織さんが理系を選択するなんて驚いたな。
あまり、得意じゃなかったよね。」
「うん、正直苦手だったわ。
でもね、美保に言われて、ね。
美保に色々教えてもらったら面白くなって・・・・・美保と一緒に大学に行けたら良いなぁって・・・・・」
「ご、ごめん。」
話しながら突然泣き出した詩織を宥めるのに非常に苦労し挙句、結局抱きしめる事にしたのだ。
そのまま泣き止んでくれてもよし、起こって泣き止んでくれてもいいと。
しかし、予想は外れ、ユウは詩織が泣き止むまで抱き続ける羽目になるのだが。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


3年に進級したユウは部活で後進の育成に頭を悩ませていた。
(このまま卒業してしまったら自分が始めた改革は自分の代だけで終わってしまい、完成させる事は出来ない。
歴史として刻み込まなければ単なる一時的な方針で終わってしまう。
それは嫌だ。
それでは部員の1/3を失ってまで進めた意味が無い。
それに僕のした事が、足跡として残らない。)
改革を自分の足跡として残すには改革を推し進め、伝統として根付くようにしてやる必要があるとユウは考えていた。
この頃からユウは今まで以上に結果に拘る様になっていた。
まだ、結果がすべてとまでは言わないが、結果が残せなかった過程を軽んじるように少しずつ変化していた。
そんな中でユウは、自分の改革が一代で終わらせず次代以降も改革を引き継ぎ、さらに次代へと続く事の出来る人材の育成にも力を注いだ。
目を付けた次代を率いる人材候補を交えてこれからの方針の草案を示し、それに対する意見を纏め、男子卓球部改革案として文章化して残した。
もちろん、今まで実行してきた内容を心得として残す事も忘れない。
自分が終生監督する事が出来ない以上、望む方向に向けるにはしっかりとした方向性、具体性を示してやる必要がある。
ユウはそう考え、それを実行した。
ユウが卒業した後も受け継がれた改革は成功し、男子卓球部はインターハイ常連の県内卓球の有力校にまで成長した。
但し、入部した進入部員の2/3が夏を待たずに辞めていくほど、厳しく勝つ事に比重を置いた部へと変貌していったが。
ちなみに翔は3年最後の大会でインターハイに駒を進めたがユウ自身はインターハイには一度も出場する事無く、引退した。


夏休みが終わり、部活を引退すると同時にユウは勉強に関して今まで以上に努力をし始めた。
ユウは、2学期の中間試験、期末と学年トップを維持し、受験へと望んだ。
そして、周囲の期待に応え、見事東京大学に合格した。
ユウ達の高校は進学校ではあったが、さすがに東京大学に合格することは1年に一人いるかいないかの快挙だった。
まして、現役で合格するのは5年ぶりとのことだった。

2年の夏以降、人が代わった息子を心配していた裕也の両親もこの結果には喜んだ。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


一方、詩織も2年の3学期以降、人が変わっていた。
何かを忘れるように、何かを振り払うように部活を辞め、一心に勉強へと打ち込んでいた。
両親はその代わりように心配し、カウンセラーに無理やり連れて行ったりもした。
しかし、その様は改善される事は無かった。

そして3年への進級を境に詩織は完全に一人になった。
人が変わったとは言え、仲の良かったクラスメートに話しかけられれば返事は返すし、対応は普通にするので人間関係は維持されていたが、進級によるクラス替えで友人達がこぞって文系に流れた事もあり元クラスメートはいたものの『友人』という言葉でくくれる仲の良い者たちはいなかった事が拍車を掛けた。
3年の夏ごろ、明るく健康的だった詩織はいなかった。
詩織はやつれながらも目だけは鋭く輝く幽鬼ようで、正直あまり近寄りたい雰囲気ではなくなっていた。
ユウも時折見かける詩織の状態に、何度か声を掛けたのだが睨み付けられるだけで会話もしてもらえない状態だった。
そして詩織は周りの心配をよそに京都大学へと合格した。
この事はユウの東大合格以上の驚きを持って迎えられた。
ユウや詩織の高校から西の大学を受験するものはまれであった上、京大合格者は初めてだったのだ。
結果としてユウの東大現役合格は詩織の京大現役合格の陰に隠れてしまったといってよかった。


そして、卒業の日、そこに詩織の姿は無かった。
詩織は卒業式に出る事無く、京の都へと旅立っていたから。
ユウと詩織の二人を学校の誉れとして祭り上げようとしていた学校としては肩透かしを食らった格好になっていた。
といって、ユウだけを祭り上げるわけにも行かず、普通の卒業式として幕を閉じた。
ただ、ユウと詩織の2年次の担任は二人の進路変更が評価され、進学時における面談の披露は報われる事になった。
もっとも、収支として黒字だったかは本人のみが知る事であったが。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


美保が失踪としか言えない家出をして3年半が過ぎていた。
ユウは夏休みの旅行で京都に来ていた。
もちろん、ユウの東大の友人達との旅行だった。
京都を選んだ事に理由は無かった。
たまたま一緒に旅行する仲間の一人の実家が滋賀で旅館をしていた。
それだけの理由であった。
しかし、貧乏学生としては見逃せないメリットである。
ユウはいちもにも無く賛同していた。

「詩織、詩織ちゃん」
京大に進学した詩織と会う可能性はゼロでないとはいえ、ばったり再会するのはやはり運命なのかもしれない。
「ああ、ユウ君か、久しぶりだね。」
久しぶりの再会に喜ぶユウに対して詩織の反応は冷ややかだった。
「相変わらずだね。」
「そう?」
「なんだ、知り合いかい?」
ユウと詩織の様子にユウの連れが声を掛けてきた。
「ああ、高校のときの同級生なんだ。」
「そうか、彼女も旅行?」
「いや、私はこっちに住んでるんだ。」
にこやかに対応してくる由の友人にもユウに対するのと同様そっけない対応をする。
「な、なぁ、ユウ、彼女なんか機嫌悪そうだな。」
「いや、高校のときもこんなだったよ。」
「そ、そうなのか?」
「ああ。」
「なぁ、もし積もる話があるんなら、俺たち失礼するけど?」
「そうだな。
それじゃ夕方に待ち合わせしよう。」




「ひさしぶり。」
ユウは笑顔で詩織に話しかけた。
2年半ぶりに見た詩織の様子はかなり大人びて見えたのかユウの方はなんとなく照れくさそうにしていた。
それに対して詩織は何の感慨も持たないのかユウのことはチラっと見ただけで風景を眺めながら言葉を返していた。
「ひさしぶりね、ユウ。」
ユウはそっけない対応ながらも詩織に女を感じていた。
いやむしろユウが男として成長した事でそう感じるのかもしれない。
「詩織、そのワンピースかわいいね。よく似合ってる。」
ユウが詩織の服装をいきなり褒めた。
「そう?偶々普段着ている服、全部洗ってこれくらいしか無かったから着ているだけ。
でも良かったの
友達と旅行に来ていたんじゃないの?」
「いや、折角会えたんだ、少しくらい昔話をしたいからね。」
「そう。」
ユウは取り合えず詩織が席を立たないのを見ると自分の近況を話し始めた。
ユウは今、東大の法学部で法律や政治のことを学んでいると言う。
「今の日本を動かしているものは何だと思う?」
ユウは詩織に問いかけた。
「一部の権力者。」
「ちがう、官僚だよ。」
「官僚も権力者」
「たしかにそういう一面もある。
一握りのキャリア官僚が日本を動かしているのさ。
日本は官僚制度のおかげでここまで発展してきたんだ。」
「そう。」
熱く語るユウに対して詩織は淡々と返す。
傍から見ている人がいればそのちぐはぐさを実感出来たろう。
しかし、当事者二人しかいない今、話は淡々と続いていた。
「官僚制度ってさ、明治時代に大久保利通が中心になって作り出して以来、ず〜っと日本に根付いている社会システムなんだ。
あのマッカーサーですら官僚制度を変えることはできなかったくらい強固な日本の制度なんだよ。」
ユウが何を伝えたいのか、詩織にその真意は分からなかったが、ユウは日本のことを語りだした。
「明治の頃や戦後の高度経済成長の時のように、効率的な経済発展には、特に大きな成果を挙げてきたんだ。
日本人は昔からお上の言うことは良く聞くしね。でも、今この官僚制度が崩れかけているんだ。」
ユウは話に熱が入りだした。
「バカな政治家や評論家が本質も分からずに余計な口出しして、日本の優秀な官僚制度を壊しているんだよ。
このままいったら、日本は立ち行かなくなる。」
ユウはさらに続けた。
「うちの大学のOBには、日本のいろいろな分野の第一線で活躍している人がたくさんいる。
俺は、大学に入ってから、できるだけいろいろな先輩達に会って話を聞いてきたんだ。
官僚や政治家、一流企業の社長の話も聞けた。」
ユウの話は止まらない。
「やっぱりなんだかんだいっても官僚は人材の宝庫だよ。
みんな日本のことを考えて誇りを持って仕事をしている。
だけど、せっかくの有能な人たちがその力を発揮しにくくなってるんだ。」
「・・・・。」
詩織は冷たい視線でユウを見るがユウはその視線の冷たさに気づくことなく熱く弁を振るっていた。
「だから、僕も官僚になりたいと思っている。」
詩織の顔に初めて表情が表れた。
(なりたい?
今までのユウの語りや性格からすればそこは『なりたい』じゃなくて『なる』じゃないのかな?」
「でも、今は官僚が存分に力を出せない。
だから、官僚制度を立て直したいんだ。
立て直すっていっても、元通りにするんじゃなくて、現代社会に合うように、ちゃんと機能するようしたいんだ。
それには、自分が官僚になってそれをよく理解する必要があるだろ?
俺は中から組織を変えていこうと思うんだ。東大ってもともと官僚を育成するためにできた大学だしね。」
詩織はユウの壮大な話を聞きながら明らかに冷ややかな眼をしながら立ち上がった。
「そう。
日本を駄目にした政治家と官僚をユウが立て直してくれるのを期待してるわ。」
明らかにけっぺんも期待していないという声色でそう告げると詩織はユウに背を向けると手を振りながらその場を去っていった。
奇しくもその様子はユウが最後に美保とあったときの別れと酷似していた。

「なんだよ。」
ユウは自分の言った事に感銘もしなければ意見も言わない詩織に、がっかりしていた。
あれから3年以上経っているんだからもう少し懐かしがるなり何なり、反応があってもよいとユウは思っていた。
しかし、詩織はしっかりと反応していたのだ。
ユウ自身は熱弁を奮っていて気づかなかったようだが、ユウが思いを語るたびに詩織の視線が冷たくする事で。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

ユウと詩織の偶然の出会いから約一年、美保が失踪としか言えない家出をして約4年半が過ぎていた。
就職活動で忙しい中、ユウや詩織の世代は同窓会を開く事になり、再び学校のある懐かしい街に戻っていた。
「詩織さん、久しぶり。」
「ああ、ユウか、久しぶり。」
「詩織さんも同窓会だよね。」
「ええ。」
同窓会会場へ向かう途中で詩織を見かけたユウは何とか話しかけるもその後は続かず、無言のまま2人は会場へと向かって歩いていた。
ユウとしては何とか和やかな雰囲気へと持って行きたいのだが、詩織はユウのアクションを弾く様に立ち回り、相手をしてもらえない。
そんな状態で歩いている二人に背後から声がかかった。
「石川に詩織じゃないか。
久しぶりだね。」
振り返った2人は同じ様に疑問の表情を浮かべた。
目の前に居る男性に全く心当たりがなかったのだ。
いや、正確に言えばどっかで見たような気もするのだが思い出せない、だからそれは気のせいだと断じていただけだが。
「そっか、この格好じゃ初めてだもんな。
改めて自己紹介するよ。
初めまして、俺の名前は香川 裕也、旧名 香川 美保っていえば思い出してくれるかな?」
「「えっえぇぇぇ、美保!!」」






# if版7話の公開です。
# 今回はとにかく大変でした。私事ではアクシデントが起き、話の流れは決まっているのに細部が落ち着かない、等。
# 特に苦労したのが冒頭の美保宅でのエピソード。ここだけに限れば粗筋ベースでも3回は変えています。
# ただ、ちょっと時間のスキップが一話の中で激しくて4年半が流れています。
# ここをもう少しうまく表現できないかと試行錯誤しましたが私の今の力量では無理だと判断し、今回の公開になっていますのでごめんなさい。
# if版もあと2話+エピローグで終わり。
# やはり私に長編は向かないのかもしれません。
#
# それでは、次話にて。
# ダークサイド
#

2009/2/22

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