ダークサイドさんが「Another8話」として掲示板に投稿されたものを、ここに転載させていただきました。

Another8話

「詩織。」
私が声の方を振り向くとそこには石川 裕也の身体があった。
「ユウ、久しぶりね。」
「ああ。」
美保が、裕也が死んで2年。
彼の三回忌だもの、ユウと再会するのは当たり前よね。
「元気だった?」
「ああ、詩織は?」
「私は・・・そうね、元気でいないとね、裕也のためにも。」
私はあの日起こった事を思い出していた。


 ■記憶の中の僕
   Another-08th :《side:詩織》石川 裕也



裕也が自殺した当日の事、その日に起こったことは私は直接は知らない。
裕也からのメールとユウから聞き出したことだけだ。


「ユウ!
僕の身体を返せ、今すぐに。」
「み、美保、来るなりいきなり何を言って・・・・」
一瞬、ユウには何が起きたのか分からなかった。
突然、部屋の鍵が開き、一人の女が飛び込んできたのだ。
しかし、そこにいたのは何度と無く逢瀬を重ねた相手、美保だったのだから。
「うるさい、僕の、石川 裕也の身体を返せって言っているんだよ。
入れ替えたの美保だろう。
だったら戻せるはずだ。」
「だから入れ替わりなんて美保の・・・」
「記憶違い?思い込み?
違う、それだけは違う。
入れ替わりはあった。
普通の健全な男の子がその年まで自慰行為をしてないなんてことは普通ありえない。
それに、あの時の精液の匂い、僕の記憶に確かに合った。
メモが必要ない、ならなんで翌日勉強道具も持たずに図書館で会う必要があった。
僕は揉める事が嫌だったから強くは言わなかった。
きっと、美保が言い出してくれると信じて。
美保が勝手に裕也としての道を変えてしまって裕也に戻れなくなると思ったときも、戻れない状況になると分かっていても強くいえなかった。
だけど、今度の事だけは認められない。
試験なんて、来年だってあるじゃないか。
でも、葬式は今回だけなんだよ。」
「来年じゃ一年遅れる、その一年がどれだけの差になると思っているんだ。
死んだ知らない他人より、生きている自分を優先して何が悪い。」
「そう、『他人』なんだ。
やっぱりユウは美保じゃないか。
なのに、何で認めないの、何で身体を返してくれないの?
どうしてもしらを切るのなら・・・・戻らざる得ないようにしてあげるよ。」
「美保・・・それ・・・包丁・・・」
狂気に染まった視線に射すくめられ思うように行動できない状況にユウはパニックに陥っていた。
入れ替わってからのユウと美保ではユウの方があらゆる点で上に立っていた。
にもかかわらず今のユウは美保に恐怖していたのだ。

「そう、包丁だよ。
これで右手を使えなくしてあげる。
そうしたらその身体返してくれるよね。」
「まて、美保、そんなことしたら。。。」
「警察に言う?
そんな事したら元に戻ったとき、五体満足でも経歴に傷が付くよ。」
「やめ・・・まって・・・美保、お願いだから。」
「駄目。さぁ、右手頂戴。」
「やめて、やめてよ、石川君!」
「やっと、僕を石川 裕也だって認めてくれたね、ユウ。
それじゃ僕の身体返してくれるよね。」
「それは無理・・・」
「そう、それじゃやっぱり右手貰うね。」
「そうじゃない、入れ替わる事はもう出来ないの。
返したくても返せないのよ。」
「もう、出来ない?」
「ええ、出来ないの。
石川君の言うとおりあの日、夏祭りの日に身体を入れ替えたのは私。
あの方法で入れ替わったものは入れ替わってから一ヶ月の間だったら元に戻ることが出来るの。
だから、あの夏休み、石川君の身体を借りて男の子として生活してみるつもりだった。
あこがれていた男の子としての一ヶ月という短い期間だけど生活出る。
そして一ヶ月したら身体を返して、告白しようと思ってた。」
「何で相手に僕を。」
「だって、元に戻るつもりだったから、好きでもない人に身体を貸すのは嫌だったから。」
「それじゃ何で入れ替わったままなんだよ。」
「入れ替わって臨んだ大会、覚えているでしょ。
あの時の、決勝まで言ったときの興奮が私を魅了したの。
この身体にもう少し馴染めば、インターハイも夢じゃない、この身体で練習すればインターハイにいけるかもしれない。
今までの自分では叶えられなかった事が叶えられる。
このままでいれば家からの抑圧から解放される。
そんな誘惑を振り切る事が出来なかったの。
だから、身体が返せなかった。
そして、石川君も美保に馴染んで見えたから、このままでも良いんだって思い込んで。」
「もう一回同じ事をしても戻れないの?」
「ごめん、それには破瓜の血が必要なの。
だけど、私の、美保の身体のは私が使っちゃったから、もうない。
石川君がこの身体に戻る方法はもう無いの。」
「そんな・・・・・戻れない・・・・・謝りにいけない・・・・・」
ユウの告白を聞いた美保はその手から包丁を床に落とすとその場にへたり込んでしまった。
先ほどまでの狂おしい凶器は既に無く、全てを失った骸の様に見える美保の瞳は焦点をどこにあわせることも無く、ただ、ただ呟くだけの状態になっていた。
「石川君?ねぇ、石川君。」
「僕、僕はどうしたら・・・・・」
「ごめんなさい、私に出来る事なら何でもする、何でもするから。」
「本当に?なんでも?」
「ええ、なんでも。」
ユウの言葉を聞いた裕也は力の無い笑みを浮かべるとはっきりと告げた。
「それじゃ一つだけお願い。
これからも石川 裕也として僕の両親の事、守ってあげて。
僕はおばあちゃんに謝りに行って、何も出来なくなっちゃうから。」
「判った。約束する。
石川君の両親は私が必ず幸せにする。」
「よかった・・・さよなら、美保」

ユウはしばらくの間、開け放たれたままの、裕也の出て行った扉を眺めていた。
正直、頭の中が整理出来ていなかったのだ。
突然の裕也の来襲、そして脅された挙句に事実の告白。
そして、去っていた裕也の姿。
そんなユウを現実に引き戻したのはユウの携帯だった。
「美保、そっちに美保まだいる?」
「すいません、どなたですか?
言ってる事がおかしいですよ。」
「詩織よ、詩織。
聞いてんの、美保。」
「聞いてますけど、僕は裕也で、」
「あんたが本当は美保だって事、とっくに知ってんのよ。
本物の裕也から話は全て聞いてるの。
それで、本物の裕也はまだそこにいるの?」
「ふぅ、裕也なら二時間ほど前に帰りましたよ。」
「ちっ、メールしたのはその後か。」
「詩織ちゃん、一体どうしたんだよ。」
「あー、イラつくわね、美保から、本物の裕也から二時間ほど前にメールが入ってて、ついさっきそれを読んだのよ。
んで、その文面読んでてすごく嫌な予感がして・・・・遅かった。」
「なに、どうしたの?」
「美保、テレビつけて、直ぐ、NHK。
美保が死んだって・・・・・ニュースに・・・。」
ユウが付けたテレビのニュースでは『香川 美保』がホームに入ってきた急行列車に飛び込んだと、自殺らしいと報じられていた。



裕也が自殺してから、いろいろな事があった。
ユウのところにも恋人としてインタビューがあったみたいだが、何とかかわしていた。
一方、私と美保の関係は元同級生の友人の範疇を超えていることはばれておらず、ユウという恋人がいたこともあり平穏なままだった。
そして、裕也の葬式当日、初めてユウと私は対面した。
あったと同時に私は反射的にユウの顔を力いっぱい殴っていた。
正直、殴り終わった後、自分自身でも唖然としてユウを殴り飛ばした拳を眺めていたくらいだから。
手元にある集合写真には顔の晴れ上がったユウが写っている。


とはいえ、あれから2年。
さすがに生であってもユウを殴り飛ばしたりはしない。
「おじさんたち、落ち込んでたね。」
「うん。」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫じゃないといけないんだ。石川君と、約束したから。」
「そう。」
美保はあの日以来、裕也との約束を守っている。
ユウは公務員になることを止め、一流企業に就職した。
夢を捨て、裕也君の両親への償いを優先し、裕也君への贖罪にしたのだと私は思っている。
「それじゃ帰るよ。
休みは今日だけだから。」
「ええ、次からは身内だけだろうからもう会うことも無いわね。」
「ああ、それじゃ。」


私は帰っていく裕也の身体を忘れないように目に焼き付けた。
美保が、石川君が自殺した本当の理由を知っているのは私たち2人だけ。
美保の携帯から送信されたメールもユウに見せた後、消去した。
美保の携帯も粉々になった以上、メールの内容を知るのは私たち2人と死んだ裕也君だけ。
美保の両親は自分たちが美保に求めた事と美保の求めていた事のギャップが娘を死に追い込んだと思っている。
でも事実は違う。
裕也は大好きだったおばあちゃんに謝りに行ったのだ。
他人の身体になって、それに甘んじていたために見送れなかった事を。

正直、入れ替わりの事実の詳細をユウから聞いた時、本当に殺してやろうかと思ったのだ。
でも、それは出来なかった。
ユウは裕也に約束していたから、必ず裕也の両親を幸せにすると。
だから許した。正確には執行猶予だ。
そしてユウに一度だけ抱かれた。中身はともかく、大好きだった裕也に女として抱かれてみたかった事、そしてこれが本当の理由だけど、裕也君との子供が欲しかったのだ。
美保になった裕也とは何度も逢瀬を重ねた。でも、女同士の身体では子供は生まれない。
でも、裕也になった美保との間の子供であればそれは裕也と私の子供だ。
だから妊娠しやすいときを狙って抱かれた。
家で私を待っている愛しい息子、裕也。
私の裕也の父親を知っているのは私だけ。
両親も、種を提供した美保も知らない。大体、美保には子供を生んだ事さえ知らせていないのだから。
子供に本当の父親の事を話せるときが来るかは分からない。
でも、お母さんはお父さんの事を愛してたんだと、それだけは伝えてあげたい。
私は斎場を背に愛しい裕也の待つ我が家へと急いだ。


【完】

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